「持続可能な開発目標(SDGs)」という言葉を聞いたことがありますか。SDGsは、子どもの権利と強く関連しており、この目標を達成することは、子どもに関連するさまざまな課題を解決することにもつながります。
皆さんと一緒に、SDGsが大切にしていることや、各目標の内容について理解を深めていきたいと思います。
持続可能な開発目標(SDGs)とは、貧困、不平等・格差、気候変動による影響など、世界のさまざまな問題を根本的に解決し、すべての人たちにとってより良い世界をつくるために設定された、世界共通の17の目標です。SDGsについて分かりやすく紹介していきます。
SDGsは、いつ、どこで、誰が策定し、いつまでに達成する必要があるのでしょうか。
2015年9月に、「国連持続可能な開発に関するサミット」が、ニューヨークで開催されました。ここで、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」が、世界各国の政府によって採択されました。
▲サミットでバン・キムン国連事務総長(当時)にメッセージを託す子どもたち
この「2030アジェンダ」のなかに、SDGsの17の目標が示されています。これら17の目標を、2030年までの15年間で達成することを目指して、世界は2016年から取り組みを始めています。
それでは、「持続可能な開発」とは、どういう意味なのでしょうか。
「持続可能」とは、将来の世代のための地球環境や資源が守られ、今の状態が持続できることです。
また、「開発」とは、すべての人が安心して、自分の能力を十分に発揮しながら満足して暮らせることを指します。
SDGs が策定される以前から、世界は社会、環境、経済の問題にそれぞれ取り組んでいました。しかし、SDGsは、それらの問題に対する目標を一つにまとめたところが特徴的です。
経済発展だけに取り組むのではなく、環境や社会が抱える問題にバランスよく取り組み、その根本的な解決によって、世界を持続させることをSDGsでは目指しています。
また、世代を超えたすべての国、すべての地域の人々が、誰一人取り残されることなく、尊重される社会を目指しています。
SDGsが策定される前の15年間、世界はミレニアム開発目標(Millennium Development Goals-MDGs)に取り組んできました。
2000年に、国連ミレニアムサミットで採択され、2015年を達成期限としていたこのMDGsには、貧困、保健、教育、ジェンダーなど8つの目標が設定されていました。この目標達成にむけて世界が取り組んだ結果、貧困下で暮らす人の数が減ったり、学校に通える子どもの数が増えたりするなど、大きな成果がみられました。
MDGsは、開発途上国を対象としていましたが、今進められているSDGsには、途上国だけでなく、日本などの先進国を含む、すべての国が取り組まなければなりません。
SDGsのそれぞれの目標については、この記事の後半で紹介しますが、その前に、SDGsを理解するためのキーワードを9つ紹介します。
すべての人間が生まれながらに与えられている権利です。人権は、「平等」と「尊厳(そんげん)」(とても大切で、だれからも奪われないこと)という2つの主な考え方に基づいています。
衡平は、違いを前提として、その違いに応じた異なる対応を行うことで、みんながそれぞれの権利を平等に得られるようにすることです。衡平は、世界がより発展し、平和で公正 (かたよらず、正義があること)な場所になるために大事な考え方です。
参加とは、目的をもって集まりに加わったり、行動をともにすることを指します。参加を通して自分の考えを意見として表明したり、その意見が聴かれることは、すべての人の権利です。
努力の結果として得ようとするものです。SDGs では、17 のゴール(目標)がどのように、あるいは、どの程度達成できているかを知るために、より詳しい 169 のターゲット(指標)を定めました。
国とは、領土、国民、政府、法律などによって成り立つものです。これらがもとになって、各国の政策や制度がつくられます。
国がさまざまな問題に取り組むため、また、国民の利益のために行う計画、および、それに向けた行動のことです。
食べ物や、健康な体、学校に行くことなど、生きていくのに必要なものが十分にない状態のことです。貧困にはさまざまな定義がありますが、1 日 1.90 米ドルの貧困ラインを下回る状況での生活を強いられる「絶対的貧困」と、所属する社会の一般的な生活レベルと比べて一定以下の生活を強いられている「相対的貧困」があります。SDGs ではこのどちらにも取り組む必要があります。
「国連子どもの権利条約」によると、子どもとは、18才未満の人のことを指します。
男性や女性といった生物学的な性差とは異なり、たとえば、女性らしさや、男性らしさのような、ある社会や文化のなかで作り上げられた男性像、女性像を指します。
SDGsで設定されている17の目標について少しくわしく見ていきましょう。SDGs では、17 の目標がどのように、あるいはどの程度達成できているかを確認するため、それぞれの目標に対するターゲット(指標)が定められています。ターゲットは全部で169個あります。
世界中の、あらゆる形態の貧困を終わらせることを目指した目標です。世界には、「絶対的貧困」という、1日1.9米ドル(約210円)以下で暮らす極度の貧困の形もあれば、所属する社会の一般的な水準より低い状況で暮らさなければいけない「相対的貧困」という貧困の形があります。日本では、7人に1人の子どもが「相対的貧困」の状況に置かれています。
貧困とは経済的なことだけではなく、教育や仕事、食料、安全な水、病院、住居などの必要な物やサービスがない、または受けられないこと、さらに自分の意見を自由に言えないなど、自分のもっている本当の力を生かせないことも含まれます。
子どもからお年寄りまですべての人たちが、栄養のある十分な食事を取り、持続可能な農業をすすめることで世界中の飢餓を終わらせることを目指す目標です。
今も世界の多くの子どもたちは、栄養不良が原因で命を落としています。特に、途上国など、自分たちに身近な環境や資源を用いて毎日の食事や生計を得ている人々にとって、環境や生物多様性を守りながら農業の生産量を増やすことは、飢餓や栄養不足をなくすためにはとても大切です。
そのために、種や作物、家畜の多様性や環境、資源を守る持続可能な農業を進めていくことが重要です。
すべての人が健康で、安心して満足に暮らすためには、病気を未然に予防したり、適切な治療を受けたりすることが必要です。
また、妊娠や出産の際に誰もが保健サービスを受けられること、幼い子どもが本来予防できるはずの病気で命を落とすことがないようにすること、そして誰もが薬やワクチンを手にできるようにすることが必要です。
目標3ではこれらを達成するとともに、途上国で深刻な交通事故による死亡者・負傷者の数を半分に減らすこと、化学物質や大気・水質・土壌の汚染を減らしていくことも目指しています。
住んでいる場所や家庭の経済状況に関わらず、誰もが無料で質の高い基礎教育や職業訓練を平等に受け、すべての世代の人が生涯にわたりさまざまな機会に学習できるようにするための目標です。
若者や大人がきちんと読み書き、計算ができるようにしたり、教育を受けるため、安全で通いやすい学校設備を整えたり、資格のある先生の数を増やしたりすることもこの目標に含まれます。
目標4の達成のためには、紛争や災害の状況下でも、子どもたちが教育を受けられるよう、制度を整えたり、そのための資金を確保したりすることも非常に重要です。
すべての人が性を理由に差別されず、すべての女性や女の子に対する性的な人身取引を含むあらゆる種類の差別や暴力、搾取を、世界のすべての場所でなくすことを目指します。
また、無報酬の育児・介護や家事労働を認識し、評価することや、女性や女の子が政治や経済活動の意思決定に平等に参加できることもこの目標に含まれます。
さらに妊娠と出産に関する女性の権利を守り、土地・財産などに関する女性の権利を確保するために法律やルールをつくりかえることも、目標として掲げています。
女性の国会議員の比率が少なく、ジェンダー指数の低い日本も目標5の達成に向けて改善すべきことは多くあります。
野外での排泄をなくすこと、下水や衛生設備について女性や女の子、最も弱い立場にある人々のニーズに特に注意を払うこともこの目標に含まれます。
また排水処理を通して水質を管理することや、今後深刻化するといわれている水不足に対し、水の再利用や利用効率の改善、コミュニティ参加による水資源管理や水に関する生態系の保護も目指しています。
電気やガスなどのエネルギーを持続して供給するためには、石油や石炭などのエネルギー源のみに頼らず、太陽の光や風、川を流れる水の力、海の潮の力など自然の力でつくる再生可能エネルギーの使用を大幅に増やすことが重要で、これも目標の一つに含まれます。
さらに、より少なく、無駄を省きながらエネルギーを使用できるよう、2030年までに世界全体でエネルギー効率を倍増させることも掲げています。
この目標には、2030年までに、若者や障害者を含む、すべての女性と男性が、人間らしい働きがいのある仕事に就くこと、また子どもの心身に害を及ぼす労働には厳しい姿勢で臨むことが含まれています。
さらに強制労働や人身取引、子ども兵士、売春・ポルノなどの最悪の形態の児童労働を確実になくすための施策を早急に行い、2025年までにあらゆる形態の児童労働をなくすことも掲げています。
インフラには水道や鉄道、ガス・電気、インターネットなどの設備やサービスが含まれますが、利用の際の価格を安くし、すべての人が平等に使用できること目指します。
また、経済発展を進める際、製造業に従事する人の数を増やしたり、特に途上国において小規模の製造業への金融サービスの仕組みを増やすこと、企業が環境に配慮した技術や製造の工程などを取り入れることなども目指しています。
また、先進国と途上国の間の不平等をなくすため、国際的な金融の取引に対する規制や制度を強化することや、貿易において途上国に特別な配慮を行うこと、世界銀行などの国際金融機関の意思決定の際に、途上国の参加や発言力を拡大することなども、この目標には含まれています。
さらに住民のまちづくりへの参加を確保すること、災害に強いまちや地域をつくること、大気汚染を防ぎ廃棄物を管理して都市の環境を改善すること、世界文化遺産・自然遺産を守ることもこの目標に含まれます。
持続可能な消費と生産を行うためには、大企業や多国籍企業が持続可能な方法で事業を実施し情報を公開すること、国や自治体が環境に優しい物品やサービスを使用すること、そして人々が自然と調和した暮らしに関する知識を得られるようにすることなども必要で、それらも目標として掲げています。
気候変動やその影響を止めるためには、すべての国が今すぐ行動を起こす必要があり、気候変動のための対策を国の政策や戦略、計画に組み込むことが必要です。
気候変動の原因となる温室効果ガス排出の減少、気候変動に伴う環境変化への適応やその影響の軽減について、人々が知識を得て能力を高め、きちんと制度を整えることが目標となっており、教育の場においてもこれらについて指導することが求められます。
過剰または違法な漁業、海の環境を破壊するような漁業の方法を撤廃して取り締まり、科学的な情報に基づいた保全を実施することもこの目標に含まれます。
人々の暮らしに欠かせない魚ですが、途上国や島しょ国の人々が漁業規制などによって困窮しないよう、海からの資源を持続可能な方法で利用し、そこから収入を得るために支援することも明記しています。
また生物多様性が失われることを防ぐため、絶滅危惧種を一刻も早く保護したり、密漁や動植物の違法な取引をなくすための措置を講じたりすることもこの目標に含まれます。
さらに、天然資源に関わる計画を国や地域レベルで策定し、生態系の保護と地域の人々の持続可能な生計が両立するようサポートすることも明記されています。
違法な資金の取引や武器の取引、汚職を大幅に減らすこと、子どもや若者を含む人々の意見を意思決定に反映し、人々に対して情報を公開して説明ができる政府や制度にすることもこの目標に含まれます。また、グローバルなレベルでの決定に際し、途上国の参加を拡大、強化していくことも目指します。
すべての国が目標達成に向けて国の予算を確保し、また先進国は途上国に必要な資金や技術を支援し、国同士の格差を生まない貿易ルールを実施することが掲げられています。
さまざまなステークホルダー(関係者)が連携することや、目標達成に向けてどのくらい進捗しているかを確認するため、データや統計をきちんと集めることもこの目標に含まれています。
国連が決めた世界の目標というと、自分たちとは遠い感じがするかもしれません。でも、たとえば、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で学校が休校になり、授業が受けられないことはSDGsの目標4につながります。
また、日々の買い物をするスーパーで賞味期限が切れてしまった商品について考えることは、目標12を考えることにもつながります。
このように、SDGsと私たちの毎日の生活は強く結びついています。
日本では2016年に全閣僚をメンバーとする「SDGs推進本部」が設置され、「SDGs実施指針」や「アクションプラン」が策定されるなど、SDGs達成に向けた動きが進められています。
また、各企業や自治体などの団体も、SDGsの目標を達成するための取り組みを進めています。2021年6月14日に発表された国際レポート『Sustainable Development Report 2021(持続可能な開発レポート)』で、日本のSDGs達成度ランキングは、世界で前年の17位から18位に落ちています。
この報告書によると、目標4、9、16は達成されていると評価される一方、特に目標1、5、7、10、12、13、14、15、17については重要な課題が残っていると考えられています。
日本の企業もSDGsへの取り組みを進めており、持続可能な社会づくりのために動き始めています。
人々の生活に強く結びつく企業の活動は、生産から消費者の手に届くプロセス全体において、環境、社会への負の影響を最小化し、SDGsの目標達成に貢献するものでなければなりません。
最近では、困難な状況にある人々に寄り添った活動を行うNGOと企業が連携し、社会や環境の課題を解決するために何ができるか共に考える動きが進められています。
このような動きは、社会課題と経済や環境の問題を一つにまとめたSDGsだからこそ進められた社会の変化といえます。
▲SDGsについて子ども・若者向けに説明したハンドブックより*1
2015年に発表されたSDGsですが、SDGsが策定されるまでの約3年間、テーマや国ごとの話し合いが何度も行われてきました。
この話し合いには、各国政府や国際機関の関係者のみならず、世界中の市民社会(NGOやNPO関係者)や研究者、企業など、さまざまなステークホルダー(関係者)が参加し、意見交換を行いました。
セーブ・ザ・チルドレンも、SDGsが子どもや若者、また最も困難な状況にある人々の課題を解決するものとなるよう、また彼らの意見を届けるため、このような話し合いのプロセスに積極的に関わりました。
このプロセスのなかで、セーブ・ザ・チルドレンは、他のNGOなど市民社会組織と協力して、「誰一人取り残さない」ことがSDGsの柱となるよう、働きかけました。結果として、「誰一人取り残さない」という考え方は、SDGsの主要な理念に取り入れられましたが、これには大変大きな意義があると考えます。
現在、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、SDGsのなかで子どもに強く関連する目標( 1、2、3、4、5、8、10、16)を中心に活動を行っています。
これらの活動には、モンゴルでの教育事業、ベトナムやミャンマーでの栄養・保健事業、ウガンダやインドネシアでの防災事業などが含まれます。
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また国内では、他のNGOと連携して日本政府に対して、栄養・保健・教育をテーマとした政策提言活動(アドボカシー)を行ったり、子どもの貧困問題や、子どもを体罰や虐待から守るための活動、さらに、子どもに配慮した災害対応の普及を目指した活動を行っています。
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セーブ・ザ・チルドレンは、生きる、育つ、守られる、参加するという「子どもの権利」が実現された世界を目指し活動をする国際NGOですが、実は、SDGsと子どもの権利には重なるところがたくさんあります。
たとえば、SDGsの目標3は、子どもの権利第24条の「いつでも健康でいるために保健・医療サービスを受ける権利」と、またSDGsの目標4は、子どもの権利第28条、第29条の「教育を受ける権利」や「教育を通し、自分の心や体が持つ力を伸ばしていく権利」と重なります。
また、子どもの権利第6条の「生きる権利・育つ権利」は、SDGsの目標1や2と大きく関連します。その他にも子どもたちが差別されてはならないこと、暴力を受けてはならないことなどがSDGsと子どもの権利条約それぞれのなかで示されています。
つまり、子どもの権利の推進のために活動を行うことは、SDGsの目標達成のための活動であり、SDGsの目標達成のための活動は、子どもの権利を推進するための活動でもあります。
これまでSDGsについてさまざまな観点から説明をしてきました。
2030年までにSDGsの目標を達成するためには、政府や企業、NGOだけが活動に参加するのではなく、地球に暮らす一人ひとりの個人も課題意識を持ち、アクションを起こすことが重要です。
たとえば、国内外にどのような課題があるのかを知るための情報収集をしたり、それらの解決に関連する講演やイベントに参加したりする、またはSDGsに積極的に取り組む企業の商品を買ったりするなど、身近なところから行動を起こし、その輪を広げていくことが大切です。
【関連リンク】
SDGsに関連する情報は、こちらのサイトでも紹介しています。
【注釈】
*1. SDGsについて子ども・若者向けに説明したハンドブックはこちらからご覧いただけます。