2021年11月30日、セーブ・ザ・チルドレンは、シリーズトップ対談第2回(オンラインイベント)を開催しました。本シリーズ企画は、「世界や国内の課題に関して興味はあるけれど、専門用語が多くて難しそう・・・」といった疑問に分かりやすく答えていくことを目指してスタートした企画です。
第2回目は、ゲストに一般社団法人環境パートナーシップ会議 副代表理事 星野智子氏をお迎えし、セーブ・ザ・チルドレン事務局長三好との対談形式で、「気候危機と子どもたちのこれから」をテーマに開催しました。
三好:世界では、干ばつや記録的豪雨や熱波・大規模火災の頻発など気候変動による影響は甚大化しています。日本でも、2020年熊本県を中心とした九州地方において豪雨が発生し、2018年には西日本豪雨で200人以上の方が犠牲になったことも記憶に新しいと思います。
こうした状況下において、子どもたちも甚大な被害を受けています。たとえば、2020年生まれの子どもは1960年生まれの人に比べ、平均して7倍多く熱波を経験するという推計値が報告されています。セーブ・ザ・チルドレンは、こうした気候変動による影響を受ける子どもたちや人たちに対して緊急支援を行うとともに、自然災害の発生時に被害を最小限におさえるための防災・リスク削減事業も行っています。気象災害の甚大化に伴い、セーブ・ザ・チルドレンの活動も気候変動問題への対応が拡大しており、今後この状況の深刻化が懸念されます。2021年10月31日~11月13日に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)での議論も含めて、ぜひ星野さんにお話を伺いたいと思っています。
星野:COP26の基礎データとしても活用された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の2021年8月の報告では、人間の活動が温暖化を引き起こしていることは「疑いの余地がない」として科学的に結論づけられました。
その影響として、各国で特に脆弱な立場に置かれた貧困層や女性・障害者・子どもたちが、貧困の中で発生した災害でさらに貧困が進み、さまざまな問題を引き起こす負のスパイラルが発生しています。また、生態系への影響として気候変動が進むことで農業や産業へのダメージ・大規模災害が発生するリスクが増加しています。
こうした事態に対して、COP26では、2015年のパリ協定に則り、具体的なルールを決めるために議論が展開されました。産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える努力目標や、2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を45%削減することなども合意されたほか、石炭火力に関する議論についても時間をかけて議論が交わされました。石炭火力は廃止という案があったものの、産業界などからの反発もあり、「段階的削減」ということで合意がなされました。
COP26の議題に関する内容に対しては、NGOなどからだけでなく、経済界からも声があがっています。世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、今後10年の対応が決定的に重要であることが国家間・NGO間・経済界で認識され、環境問題は経済問題だと認識されています。実際に、気候関連災害の被害額は直近20年で2.5兆ドルにものぼり、気候変動問題は「気候危機」というレベルの問題になっています。SDGsも17の目標のほとんどが環境問題とつながっていて、健全な地球環境の上に私たちの社会生活・経済生活が成り立っていると考えられています(参考:下図のSDGsウエディングケーキモデル)。まずは自然資本について大勢の人としっかりと考えていきたいです。
三好:ユニセフの調査報告「気候危機は子どもたちの権利の危機:子どもの気候危機リスク指数の紹介(The Climate Crisis Is a Child Rights Crisis: Children’s Climate Risk Index)」によれば、3億3,000万人もの子ども(世界の子どもの7人に1人)が気候変動の影響を受けた地域で生活をしています。しかも、地球温暖化の責任が少ないとされている地域、すなわちCO2排出が少ない地域に暮らす子どもたちが多く影響を受けているのです。
COP26ではCO2排出量削減の議論などを行っているものの、すでに被害を受けている子どもにとっては長期的な対策では手遅れになりかねません。CO2排出量削減を行い将来の被害を最小化するとともに、いま、子どもたちが直面するリスクへの対応として、子どもたち一人ひとりが厳しい気候変動のなかでも生きていける社会の仕組みづくりが求められます。水や健康、教育の問題などに対するレジリエンス(回復する力)を高められるよう、社会全体の構造を変える必要があります。このあたりの対策について各国や機関ではどのような取組みが行われているのでしょうか。
星野:各国の国際協力の対象は気候変動の影響を和らげる緩和策から、発生している気候変動への適応策へとシフトしています。また、2017年に発行された「ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法」(ポール・ホーケン著)で提示された気候変動問題に対する具体的な方法のトップ10に一般的な気候変動対策(陸上風力発電など)とともに女子教育が入っていることは興味深いポイントです。すなわち、先ほど三好さんのお話でもあったような、地球温暖化対策としての途上国のキャパシティビルディングを行うために、女子教育が非常に重要であると訴えています。
また、「国連家族農業の10年(2019年~2028年)」や「国連生態系回復の10年(2021年~2030年)」などのイニシアチブも展開されています。これらのイニシアチブにおいては、食料を安定的に確保するために途上国を対象とした小規模農業の支援や、生態系を回復するために土壌を汚染しない有機農業の推進を目指す取り組みが行われています。
三好:セーブ・ザ・チルドレンとしても女子教育は重要なテーマとして取り組んでいます。最近報道されているアフガニスタンをはじめ、世界中で女性が学ぶ権利や女性の働く権利を保障するために、さまざまな努力をしていますが、女子教育が気候変動問題への対策にも関連があることが分かり非常に参考になりました。
三好:2021年5月に「気候変動に関する子どもアンケート」を実施し、全国の15歳から17歳の516人の子どもたちが回答してくれました。アンケート結果として、8割の子どもが気候危機の問題を認識し、気候変動問題に関するイベント参加への関心も高いことが分かりました。
また、COP26に合わせてアジア地域にて「気候変動の問題」をテーマにした国際アートコンテストを実施し、選出された作品を会場に展示しました。日本からも58点応募があり、子どもたちの思いがつまったすばらしい作品がたくさんあったのでご紹介しましょう。(日本からの応募作品も含む数点の作品を紹介。子どもたちの絵やコンテストの詳細はこちらからもご覧いただけます)
星野:アートと気候変動や、スポーツと気候変動など、さまざまな分野との掛け合わせで考えるのは重要ですね。「気候正義(Climate justice)」という言葉がユース団体などでよく使われますが、このバングラデシュの作品などは、気候正義の在り方を考えさせられる作品です。温暖化を進めている先進国は影響をあまり受けず、途上国が影響を受けるという国家間で見られる格差の問題と、現在を生きる私たちが排出するCO2の影響を未来の世代が受けるという世代間の問題を、ダブルの「気候不正義」として途上国の子どもたちが受けているという不条理や、やるせなさを感じます。
また、最近では気候変動問題を扱うことに特化した団体も増えており、SNSの拡大も相まってか、特に中高生の活動が活発です。自分でエコなものを作成して広めるなど、具体的なアクションを行う子どもたちが増えています。大学生も若者会議を実施し、経済産業省や環境省などへの政策提言を行う活動にも参加しており、そういった活動をサポートしています。
三好:最近は長期的に温暖化対策に取り組む点に焦点が当たる一方で、いま、気候変動問題の被害を受けている子どもたちの権利についてはあまり報道されておらず、子どもたちの声が十分に政策に反映されていないという課題があります。
セーブ・ザ・チルドレンは、気候変動問題に対する取り組みを強化しているところですが、市民社会の一員として子どもの声を聞いて活動をするうえで気候危機に今後どのように取り組めば良いでしょうか。
星野:気候危機の問題に取り組むためには、NGO間のパートナーシップが重要だと考えます。専門的に現場を持つNGOと政策提言を行うNGO、環境NGOと開発NGOなど、異なるNGOが互いに協力し情報交換をすると、実は接点があることが分かり、具体的な政策実現にもつながると思います。気候変動は経済・ジェンダー・教育などのさまざまな分野の問題に影響を及ぼしています。今回の対談などの機会も含め、「気候変動・気候危機」というテーマでさまざまな目的を持った団体とパートナーシップを持って一緒に取り組んでいくことが大事だと思います。
Q:欧州と比較して、気候危機に対する日本の若者の当事者意識は低いようにも感じます。原因は何なのでしょうか。
A:
星野:1つの原因として、気候変動問題に関する報道の少なさがあるのではないでしょうか。COP26の報道も日本は他国と比較しても圧倒的に少ない現状です。最近はSDGsの観点で地球規模課題に関して報道などで取り上げられることも増えたものの、環境教育や気候変動に関する情報発信が十分ではないという点も原因のひとつです。これは、社会全体としての環境への関心が低下し、政策において反映されていないことも背景として考えられるかと思います。
三好:環境問題に限らず、日本では子どもがまだまだ声を上げづらい現状があります。徐々に変化していますが、若者から積極的に発信するとともに、大人も子どもたちやユースの声を真剣に聞く姿勢があれば、より若者の環境への関心が高まると考えます。
Q: 個人にできるアクションとしてはどのようなことができますか?
A:
星野:レジ袋を使わないことや、電気をこまめに消すといったよく言われる「エコ活動」だけでは気候変動対策は間に合いません。こういった活動も単に一人で行うのではなく、活動していることを発信して、仲間を増やしてください。
また、きちんと投票に行くことや地元の環境の問題に取り組む議員と対話するといった手段で政策に訴えてください。企業のモノ作りに反映させることも効果的です。店頭などでぜひ自分の意見を伝えてみてください。今はSNSも発達しているので、いろいろなチャンネルで声を上げることに一つひとつチャレンジしてみてください。
三好:星野さんが言う通り、政治の果たす役割も重要です。温暖化対策には今までの延長ではなく新たなイノベーションも必要となります。それを後押しするための新たなルール、仕組みを作っていく必要があります。そのためには一人ひとりが選挙権をしっかりと行使して、政治家を選び、国を動かすべきだと思います。また、国・政党の環境対策決定プロセスの明確化を要求していくことも重要だと感じています。
※この記事の作成はボランティアの方にご協力いただきました。