子どもの貧困の現状
「子どもの貧困」、実感することはありますか。いま、私たちの社会はどういう状況にあるのか、少し見てみましょう。
日本に暮らす子どもたちのうち、7人に1人が「相対的貧困」にあるといわれています。相対的貧困とは、その国や社会で多くの人たちが享受できている生活水準を送れない状態を指します。目安は、等価可処分所得の中央値の半分(=貧困線)以下です。親子2人の場合、毎月約14万円以下で暮らしている状況です。
直近の2018年データによると、日本の子どもたちの13.5%、およそ260万人が貧困状態にあると推計されます[1]。
相対的貧困の算出法として、貧困線の半分(50%)ではなく60%以下を採用している国々もあります。また、OECDによる可処分所得の新定義によれば、2018年の日本の子どもの貧困率は14.0%と算出されます。どういう状態を貧困とみなすかは、どのような生活をみんなが送れるように目指すのかに関わってくる、重要な基準です。
子どもの貧困における問題点
経済的な困難が子どもたちにもたらす問題は、多岐にわたります。
必要な食料を買えず、満足に食べることができない。支払いが難しいため、医療機関を受診できない。学習机や落ち着いて勉強できる空間を持てない。年に一度、美術館・博物館やスポーツ観戦に行けるような余裕がない-[2]。
本来、これらの暮らし・学び・成長に関わる営みは、日本も1994年に批准している国連子どもの権利条約が定める子どもの権利です。しかし、各地の実態調査からは、社会として子どもの権利を守れていない現状が浮き彫りとなっています。
さらに、子どもの貧困問題は、子どもたちの「いま」に留まらず、「これから」を思い描いたり、チャレンジする機会を失わせたりする要因にもなりえます。
2017年度の大学等進学率を見ると、全世帯では52.0%、生活保護利用世帯では19.0%と、大きな開きがあります[3]。教育や資格取得は、一人ひとりの生涯所得や納められる税・社会保険料にも関わってくるため、子どもの貧困を放置することによる社会的損失は42.9兆円との推計結果も報告されています[4]。
貧困問題を放置することは、誰も幸せにならない選択です。
子どもの貧困の原因
なぜ、世界第3位の経済規模の国で、これほど多くの子どもたちが貧困状態で暮らさなくてはならないのでしょうか。貧困は、さまざまな問題が重なって起きていますが、ここでは大きく2つの点から、考えてみましょう。
第1に、子どもと一緒に暮らす大人の所得が低い、ということです。
子どもがいる世帯の中でも、ひとり親世帯の貧困率は48.1%(2018年)と非常に高い状態にありますが、2015年の母子世帯の保護者の就業率は80.8%、父子世帯も88.1%と、多くの保護者は働いています。それでも、非正規職であること(母子世帯44.4%、父子世帯69.4%)やジェンダー格差などにより、働くことで得られる所得水準が低く抑えられています[5]。
また、就労所得が少なかったり、事情により働けなかったりした場合に、人々の生活を支えるはずの社会保障制度が弱いという問題もあります。OECD加盟国比較においても、税・給付制度による所得の再分配がうまく機能していないことは、以前から指摘されています[6]。
第2に、子どもが育ち・学ぶためにかかるお金が高すぎる、という現状もあります。
文部科学省の調査によれば、2018年に子ども1人にかかった学習費は、公立小学校に通っている場合で32万1,281円、公立中学校で48万8,397円でした[7]。無償であるはずの義務教育においても、給食費や通学関連費、学用品費などの多くを各家庭・個人が支払わなくてはなりません。
このほか、住宅手当や公営住など住まいの支援策が乏しいこと[8]、子どもの医療費助成が多くの自治体で15歳までに制限されていることなどにより、教育・住居・医療といった必要支出における私費負担が大きくなっています。
貧困対策というと財源問題が指摘されがちですが、教育機関への公的支出を現状の2.9%から引き上げることなどにより[9]、子どもの貧困の様相は大きく変えることができます。
子どもの貧困対策
経済的に困難な状況にある子どもたちの生きる・育つ環境を改善するため、さまざまな公的な対策も講じられています。
たとえば、授業料以外の学校教育費を支援するために、小・中学生には就学援助制度、高校等の生徒には高校生等奨学給付金があります。いずれも学習費の一部を補う金額ではありますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、家計が急激に悪化した世帯への適用や単価増額などの運用改善もなされています。
授業料についても、高等学校等就学支援金が2020年4月より拡充され、年収590万円未満の世帯についても、私立高校が実質無償化(上限額の引き上げ)となりました[10]。
同じく2020年4月より、住民税非課税世帯などを対象とした大学・短大・高等専門学校等の修学支援制度として、授業料等の減免と給付型奨学金も新たに導入されました[11]。新制度の導入により、対象世帯の大学等への進学率が2018年度の約40%から10ポイントほど上昇したと推計されており、公的予算をかけて給付型支援を行うことの重要性を裏付けています。
それでも、問題の大きさに比べて、対策はまだ不足していると言わざるを得ません。
子どもの貧困対策推進法に基づき、国による総合的な対策をまとめた「子供の貧困対策大綱」では、教育、生活、保護者の就労、経済の4分野の支援に取り組むとしていますが、その内訳を見ると、子育て世帯の所得増に直結する施策は少なく、助言・カウンセリングや地域資源の活用などが目立っています。児童手当や生活保護制度など、すべての子どもを支えるはずの既存制度も、金額が限られていたり、法的立場によってはそもそも対象とならない人たちもいます。
所得水準の引き上げなど、社会全体の底上げをはかりながら、より多くの困難に直面している人たちには、より手厚いサポートを行うといった、より踏み込んだ対策を講じる必要があります。
子どもの貧困は、一緒に住む大人の所得状況で把握されたり、保護者が相談しないと表面化しないことなどから、見えづらいと言われています。セーブ・ザ・チルドレンが2019年に行った調査では、子どもも大人も約3割が、日本における子どもの貧困の実態について、「聞いたことが無い」と回答しました[12]。
しかし、いまこのページを読んでくださっている皆さんがいるように、問題を知ろうとすること、学校や職場、地域において、「この金額はどのおうちの子どもも支払えるかな」といった視点を持ってみること、子どもの生活・教育支援にもっと取り組んでもらえるよう地元の議員や自治体に働きかけてみることなど、子どもの貧困をなくすために、皆さんにも、私たちにもできることはたくさんあります。
セーブ・ザ・チルドレンが日本国内で取り組む子どもの貧困問題解決に向けたさまざまな活動については、ウェブサイトで最新の情報を紹介しています。ぜひ、私たちの活動へのご支援もお願いいたします。
[1]厚労省(2019年)「国民生活基礎調査の概況」
[2]都道府県などによる子どもの生活実態調査では、食や医療、学習、文化・芸術・スポーツ活動などにおいて、経済的困窮の影響が報告されています。下記は一例です。
東京都(平成28年度)「子供の生活実態調査:小中高校生等調査」
長崎県 平成30年度「子どもの生活に関する実態調査」
沖縄県 平成30年度「小中学生調査」
山梨県(2017)「やまなし子どもの生活アンケート」
[3]内閣府「資料2:子供の貧困に関する現状」(第9回子供の貧困対策に関する有識者会議より)
[4]日本財団子どもの貧困対策チーム「徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃」(文春新書)
[5]内閣府(2019年)「子供の貧困対策に関する大綱」
[6]OECD(2015年)「格差縮小に向けて:日本カントリ―ノート」
[7]文科省(2018年度)「子供の学習費調査」
[8]国立国会図書館(2019年)「住宅セーフティネット政策の課題」
[9]OECD ”Education at a Grance 2020”
[10]文科省:「高等学校等就学支援金制度」
[11]文科省:「高等教育の修学支援新制度(授業料等減免と給付型奨学金」
[12]セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「3万人アンケートから見る子どもの貧困に関する意識」