このページでは、教育格差について取り上げます。最初に、教育格差とは何かを整理した後、教育格差の何が問題かを考えます。教育格差というとき、国内の格差もあれば、先進国と開発途上国の間の格差のような、異なる国の間の格差もあります。
今回は、あらゆる国で発生しうる「国内の教育格差」を主なテーマとして、取り上げたいと思います。このページの後半では、セーブ・ザ・チルドレンで多く取り組んでいる開発途上国での教育格差について説明します。
教育格差とは、「『生まれ』によって(最終)学歴が異なること」のように定義されます(松岡,2019)。「生まれ」とは、出身家庭の社会経済的地位(Socio-economic status)や出身地域などを指します。
出身家庭の社会的経済的地位は、保護者の学歴・職業・収入などから構成されます。(Oxford University Press, 2021)これらは子ども本人が選び取ったわけではない特性です。
また、教育無償化などにより、子どもの権利条約で掲げられている「教育の機会の平等」が一見実現されているように見えても、学校の遠さや制服・教科書代などの費用といった制約を解消できる「生まれ」の人もいれば、そうでない人もいるとなると、「機会の平等」が実現されているとは言えません。
度合いの差はあっても、データのあるすべての国において学歴によって収入格差が確認されています(松岡,2019)。したがって、教育格差が次の世代の教育格差や経済格差につながっていってしまいます。
では、開発途上国において、教育格差はどのような様相を呈しているのでしょうか。開発途上国38ヶ国を対象とした49の実証研究をメタ分析[1]した結果(Kim et al, 2019)によると、社会経済的地位と最終学歴には正の相関があり(つまり、社会経済的地位が高いほど最終学歴が高い)、社会経済的地位による教育格差が存在すると言えます。
例えば、開発途上国と呼ばれる国であっても、首都圏には比較的質の高い教育環境が整っているという国は少なからずあります。その反面、地方の遠隔地などに移動すると、そもそも歩いて通える範囲に学校がないような地域があることも多々あります。
こういった地域に生まれた場合、家庭の社会経済的地位が高ければ通学のために車などの交通手段を手配したり、都市部に移住するような可能性もあったりしますが、社会経済的地位が低ければ、そのような対応も困難となる可能性が高いでしょう。
他方で、先進国に比べて開発途上国の方が、社会経済的地位と最終学歴の相関は弱いと明らかになっています。言い換えると、先進国の方が一般に教育状況が良いと言われていますが、開発途上国よりも先進国の方が教育格差は大きいのです。
教育へのアクセスが拡大していくと、より多様な状況下の子どもが学校に通うようになるため、就学児の家庭の間で社会経済的地位のばらつきが大きくなることが、一因として考えられます(Kim et al, 2019)。
この点は、開発途上国の教育分野の政策立案・実施や支援に関わっている人たちが十分に念頭に置いておくべきです。開発途上国が先進国の発展の軌跡をただ追うだけでは、国内の教育格差拡大につながる可能性があります。
では、教育格差をさらに拡大させないようにしながら、開発途上国の教育状況を良くしていくためには、どうしたら良いでしょうか。さまざまな方策が考えられますが、調査結果(Kim et al, 2019)によると、まず、開発途上国は、教育の質を上げる取り組みをすべきとしています。これにより、教育成果そのものが底上げされ、子どもが学校に行くことの「価値」が高まります。そして義務教育を修了し、さらに高等教育への進学を志向する子どもの増加につながっていきます。
次に、教育の質がある一定の水準に至った後は、社会経済的地位の低い家庭の子どもを対象とする対策を取ることが挙げられています。また、調査結果(Kim et al, 2019)は、一般に、開発途上国の女子の学業成績は男子と比べて出身家庭の社会経済的地位の影響を強く受けると明らかにしました。これは、家庭の社会経済的地位が低い場合、男子より女子の方が学業成績を高めることに労力や時間を割けない状況に置かれる傾向にあることを示唆しています。このことは女子教育の支援の重要性につながります。
したがって、より社会経済的地位の低い家庭の子どもや、出身家庭の社会経済的地位の影響を受けやすい女子などに特化した施策が必要であり、すべての子どもに一括化した授業などを行うだけでは、不十分なのです。
一方、「あなたは社会経済的地位が低いから(あるいは「女の子」だから)〇〇に参加しませんか」と子どもたちや保護者などに言うのは適切でない場合が少なからずあります。支援プログラムなどの実施が子どもたちにレッテルを貼ることにつながったり、子どもたちの間の分断を広げないように、工夫しながら活動を行う必要があると感じています。
さらにOECD(2018)によると、社会経済的地位に関連した試験成績[2]の格差は、10歳の時点で確認され、その後、成人後にわたって拡大していくことがわかりました。このことは、小学校に入る前の就学前教育において、不利な立場にある子どもたちに質の高い教育機会を提供することの重要性を示唆しています。
就学前教育についてはSDG4の中で、「4.2. 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い早期幼児の開発、ケア、および就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする」ことが目指されています。
教育格差縮小のため、またSDG4.2の達成のためにも、セーブ・ザ・チルドレンは、1人でも多くの子どもたちが就学前教育を受けられる環境をつくるべく、教育支援を実施していくことが重要だと考えています。
この記事では、教育格差について触れてきました。教育格差の軽減、教育の公正性の実現に向けて、セーブ・ザ・チルドレンは2021年11月現在、レバノンやイエメン、モンゴルなどで教育支援を行っています。ぜひその内容について、こちらからご覧ください。
[1] メタ分析またはメタアナリシスとは、複数の研究結果を収集・統合・比較し、統計学的に解析すること。
https://www.weblio.jp/content/%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%B9
[2]ここでは、PISA(Programme for International Student Assessment;国際学習到達度調査)、TIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study;国際数学・理科教育調査)のような国際学力調査を対象としている。したがって、OECD加盟国およびOECDパートナー国のみが分析対象である。
出典
https://www.oxfordreference.com/view/10.1093/oi/authority.20110803100515750