難民・国内避難民はなぜ生まれるの?原因と問題点・支援方法まで紹介します。

皆さんは、難民や国内避難民という言葉を聞いて何をイメージするでしょうか。

紛争下、爆撃から逃れようとする人の姿でしょうか。命がけでボートに乗り、他国の海岸にたどり着く人の姿でしょうか。または、白いテントが立ち並ぶキャンプで生活する姿でしょうか。生まれ育った故郷を離れざるを得ず、慣れない地で生活する難民や国内避難民の人たちは、不安な気持ちの中、日々を過ごしています。

しかし、難民や国内避難民は、「私たちと異なる世界に生きる人々」ではありません。誰もが安心して生活することができる平和で公正な社会は、私たち、地球に住む全員が、皆で協力して取り組むべき共通の課題です。このページでは、皆さんと、難民と国内避難民の問題について考えるとともに、私たちにできることを考えていきたいと思います。

難民・国内避難民について知ろう

IMG_S_CH1411112 さらなる暴力の拡大により、シリア西部から避難してきた家族が避難生活を送る避難民キャンプ  (シリア北部)

 

では、「難民」、そして「国内避難民」とはどういう状態にある人たちを指すのでしょうか。何が違うのでしょうか。それぞれが国際的にどのように定義されているのかについて見ていきましょう。

難民・国内避難民の定義

難民とは?

「難民の地位に関する条約」によれば、難民とは、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者、及び常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まない者」[1]のことを指します。

国内避難民とは?

一方、国内避難民を定義する国際法や条約はないものの、「国内強制移動に関する指導原則」では、国内避難民は、「特に武力紛争、一般化した暴力の状況、人権侵害もしくは自然もしくは人為的災害の影響の結果として、またはこれらの影響を避けるため、自らの住居もしくは常居住地から逃れもしくは離れることを強いられまたは余儀なくされた者またはこれらの者の集団であって、国際的に認知された国境を越えていないもの」[2]としています。

つまり、難民と国内避難民の大きな違いのひとつとして、避難生活を国外で送っているか、国内で送っているかという点が挙げられます。ですが共通して紛争や災害などにより、安全を求めて居住地を離れざるをなかった人たちである、といえるでしょう。

世界における難民・国内避難民の現状

IMG_S_CH1115377バングラデシュ・ロヒンギャ難民キャンプにあるセーブ・ザ・チルドレンの食料支援センター。

 

では現在、世界にはどのくらいの人々が、どこで、難民・国内避難民として生活しているのでしょうか。そのうち子どもはどのくらいを占めるのでしょうか。また、どのくらいの期間、避難生活を送っているのでしょうか。

世界の難民・国内避難民人数

国連難民高等弁務官事務所によると、2020年末時点で約8,240万人もの人々が、紛争や迫害を逃れ、家を追われた状態にあります。

この人数には、自国を離れて生活する「難民」2,640万人、国境を超えていなくても国内で移動を強いられている「国内避難民」4,800万人、庇護申請の結果待ちの人々410万人を含みます。

紛争の長期化や気候変動問題の影響などで、その数は、2010年末の4,100万人と比べると、およそ2倍となっています。この他にも、統計では以下のことがわかっています。

 

  • このうち42%が18歳未満の子どもです。
  • 2018年から2020年の間に約100万人の子どもが難民として生まれています。
  • 難民の出身国で多いのは、シリア(670万人)、ベネズエラ(400万人)、アフガニスタン(260万人)、南スーダン(220万人)、ミャンマー(110万人)です。
  • 難民の多くは近隣国に逃れ、シリア難民の場合はトルコ、アフガニスタン難民の場合はパキスタン、南スーダン難民の場合はウガンダが最大の受け入れ国となっています。また、85%以上の難民の避難先は、開発途上国です。

(以上、国連難民高等弁務官事務所のウェブサイト[3]より)

世界の難民・国内避難民問題

では、世界の難民や国内避難民の人々は、どのような状況に暮らし、どのような困難に直面しているのでしょうか。ここでは、ロヒンギャ難民やシリア難民、イエメン国内避難民の状況について、少し詳しく見ていきます。

ロヒンギャ難民とは

ロヒンギャとは、主にミャンマー西部ラカイン州に住む100万人近い人たちのことをいい、長い間、迫害が続いています。2017年8月に、激しい暴力と人権侵害を受けて、多くの人がバングラデシュへ避難しましたが、バングラデシュにおいても、安心・安全な環境の中で生活できているわけではありません。
現在バングラデシュに避難しているロヒンギャ難民の人たち約86万人[4]が居住するコックスバザールの難民キャンプは、世界で最も大きなキャンプです。人々は、ひしめき合うように立てられた竹やビニールシートなどで作られた簡素な住居で、衛生環境も不十分な中、避難生活を送っています。

シリア難民とは

2011年3月のシリア危機発生以降、これまでに国外に逃れた難民は660万人にものぼっています。また、暴力などから逃れ、シリア国内で避難生活を送る人々は670万人となっています[5]
シリア難民の大半は、トルコやレバノン、ヨルダンなど周辺国で避難生活を送っています。その9割以上が、日雇い労働などで生計を立てながら、町の中や郊外で「都市難民」として生活していますが、経済状況は厳しく、周辺国の一部では60%以上のシリア難民が収入源を失っています[6]。また、シリア国内では食料を含む物価の上昇も影響し、支援を必要とする人の数は、人口の75%にあたる1,340万人にものぼっています。

イエメン国内避難民とは

2015年3月から武力衝突が激化し、これまでに約400万人が国内で避難を強いられています。そのうち76%が女性と子どもです[7]。繰り返される攻撃により、住居、水・衛生施設や学校、保健医療施設なども破壊され、人々の生活に多大な影響を及ぼしています。コレラやマラリアなどの感染症、貧困や食料不足の影響で、国内で支援を必要とする人の数は、人口の60%以上にあたる2,070万人を超えています[8]。なかでも食料不足は深刻で、2021年には1,620万人が、危機的または緊急の食料不足の状態に置かれると言われています[9]

難民・国内避難民問題の深刻さ

IMG_S_CH1381581アイン・イッサ避難民キャンプ(シリア北東部)

 

難民の中には、数世代にわたって避難生活を送る人々も少なくありません。難民や国内避難民として生活することで、人々や社会には短期的、長期的にどのような問題が発生するのでしょうか。特に子どもたちの視点で見ていきたいと思います。

短期的な問題と長期的な問題

まず、安全な住環境、水、食事、衣類や生活必需品など、生きるために必要なものが不足したり、病気になった時に、適切な医療が受けられないという問題があります。

子どもは生まれてから1,000日の間に必要な栄養を摂取できなければ、成長が妨げられ、健康に長期的な影響があると言われていますが、避難生活の中では、必要最低限の食事もままならず、栄養不良に陥ってしまう子どもも少なくありません。

また、難民の場合、避難先の国によっては、難民が就労できる仕事が限定されている場合もあり、多くの場合、避難先で恒常的に収入を得られる仕事に就くのはとても大変です。そのため、家族を経済的に支えるために働かざるを得ない子どももいます。さらには、保護者などの心理的ストレスが増すことにより、虐待やネグレクトなどの問題も発生しています。

加えて、避難生活が長引くことで、長期的な問題にもつながっていきます。例えば、避難先で公教育を受けられるようになるまでに時間がかかったり、言語や教育の質の問題、通学に関連する費用が払えなかったりなどの理由で、学校を中退してしまう子どもも少なくありません。

教育を受けられない期間が長くなればなるほど、復学は難しくなり子どもたちの将来にも大きな影響を及ぼします。十分に教育を受けることができなければ、将来希望の仕事に就くことが難しくなるかもしれませんし、ひいては、将来の社会の発展にも影響するでしょう。

わたしたちにできる支援

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バングラデシュのコックスバザールにあるロヒンギャ難民キャンプのシェルターで

 

では、紛争や人権侵害などのために故郷から避難を余儀なくされたとき、何に困るのでしょうか。そのために、私たちができる支援には、どのようなものがあるでしょうか。いくつかの分野に分けて、考えてみましょう。

食料・栄養

人々が健康に生活するために必要なエネルギーや栄養を摂取できるよう、食料を提供します。また、乳幼児や妊産婦、栄養不良の状態にある人などには、特に、栄養価の高い食料が提供されるよう配慮します。

住居、生活必需品など

安全かつ衛生的に過ごすことができる住居を提供します。また、衣類や寝具、石けんなどの衛生用品や調理器具なども提供します。

水・衛生

飲料用だけでなく、日常生活に必要な量の安全な水を届けます。また、人々が過密状態で生活する難民キャンプにおいては、衛生管理が重要です。そのため、居住者の人数に対し十分な数の衛生状態が保たれたトイレを設置します。キャンプ内では、汚水処理も適切に行われるようにします。

保健・医療

人々が密集して生活する場では、コレラやマラリア、はしかなどの感染症がまん延するリスクが高くなります。また、衛生環境や栄養状態により発生する病気や、栄養不良なども課題です。こういった健康に関する支援が必要な人たちに対し、個別のニーズに沿った保健医療サービスを提供します。また、病気の予防の観点から衛生に関する啓発活動なども重要なため行います。

教育

子どもたちが避難生活下にあっても教育を継続できるように、学校や学習センターを開設し、教育を提供したり、学用品を支援したりします。また、質の高い教育を受けられるよう、教員の確保や教員に対する能力強化のための研修なども行います。

保護

子どもや女性など、避難生活において特に脆弱な立場に置かれる人々が、暴力や虐待、性的搾取、児童労働などの被害に遭わないよう、また、適切なケアや支援につながることができるようにします。加えて、これらの問題の予防のための啓発も行います。

避難生活においても人々が尊厳ある生活を送ることができるよう、日本を含めた多くの国が協力しながらこれらの支援を行っていますが、紛争の長期化や深刻化する自然災害などの影響で、避難生活の終わりが見えない状態が続いています。いずれの活動も実施するにあたっては資金が必要で、NGOなどの支援団体は、市民社会からの寄付を募り、活動を実施しています。

難民や国内避難民の問題は世界全体の問題

IMG_S_CH1554862ルワンダでの難民キャンプで避難生活を送るアリスさん。自宅はコンゴ民主共和国にありましたが火山の噴火で倒壊しました。

 

このページでは、世界の難民・国内避難民の現状や、必要とされる支援などについて説明してきました。難民問題の解決には、私たち一人ひとりが、この問題を自分の住む世界に起きていることとして考え、協力し合うことが必要です。難民や国内避難民の人々を「私たちと異なる世界に生きる人々」として捉えるのではなく、彼らの直面している問題を理解し、私たちに何ができるかを考えていくことが重要です。

セーブ・ザ・チルドレンは、すべての子どもにとって、生きる・育つ・守られる・参加する「子どもの権利」が実現された世界を目指し活動しいる国際NGOであり、多くの皆さんからのご寄付を通して、難民・国内避難民の人々の命と尊厳を守る活動を行っています。

今日、食べるものに困っている子ども、今、必要な保健医療を受けられない子どもの命を守るために、アクションを起こしませんか。今すぐに、日本に住んでいる私たちができることとしてご寄付があります。一人ひとりの寄付が集まれば大きな力になります。セーブ・ザ・チルドレンは、世界各地で、難民・国内避難民の子どもたちやその家族への支援活動を行っています。ぜひ、子どもたちを取り巻く課題の根本的な解決に向けて、私たちの活動へのご支援をお願いします。

 

[1],[2],[3]https://www.unhcr.org/jp/treaty_1951

[4],[5],[6],[7],[8],[9]https://www.unhcr.org/jp/28485-pr-200824.html

 

Written by

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 プログラム・コーディネーター 福田直美

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 プログラム・コーディネーター 福田直美

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