シリーズ トップ対談記事:第1回 セーブ・ザ・チルドレンと考える~食料、栄養のいまとこれから ゲスト:日比絵里子さん(FAO)

2021年6月4日、セーブ・ザ・チルドレンは、シリーズトップ対談第1回(オンラインイベント)を開催しました。本シリーズ企画は、「世界や国内の課題に関して興味はあるけれど、専門用語が多くて難しそう・・・」といった疑問に分かりやすく答えていくことを目指してスタートした企画です。

第1回目は、ゲストに国連食糧農業機関(FAO)[1] の駐日連絡事務所長 日比絵里子氏をお迎えし、セーブ・ザ・チルドレン事務局長三好との対談形式で、「食料と栄養のいまとこれから」をテーマに開催しました。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で世界や日本が直面する食料・栄養に関する課題は 

セーブ・ザ・チルドレン事務局長 三好(以下、三好):
現在、世界で深刻な食料不足に直面している人は約6億9,000万人と言われ、11人に1人が深刻な食料不足に苦しんでいます。また、5歳未満の子どもの3人に1人が栄養不良に陥っています。この状況に追い打ちをかけるように、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、さらに全世界で1,000万人以上の子どもが栄養不良に陥るとされています。日本でも食事をとることができない子どもたちがいます。

 

国連食料農業機関(FAO)駐日連絡事務所長 日比氏(以下、日比):
新型コロナウイルス感染症拡大の影響は、保健や医療だけではなく、各国の食料システムへの影響など、食料安全保障や飢餓などの問題に甚大な影響を与えています。実際に、新型コロナウイルス感染症によって最大1億3,200万人が深刻な食料不足に陥った恐れがあると言われています。実は、世界にはすべての人を養える量の食料が生産されているのですが、分配ができていないことが大きな課題です。持続可能な開発目標(SDGs)の目標2では「2030年までに飢餓をゼロにする」としていますが、実際は過去5年間の食料不足に関する状況は深刻度を増しており、目標に逆行しています。

世界の食料安全保障の現状 世界の全ての人を養うだけの食料はある 約6億9000万人以上の人々が慢性的飢餓状態、過去5年で6000万人増加→SDG2実現に逆行 健康に必要な栄養のある食事尾食べられない人は20~30億人 1975年以降、肥満は3倍になり、全ての地域で増加 気候変動、紛争、経済ショック・停滞が飢餓・栄養不良の主要因 新型コロナウイルス感染拡大により、2020年内にさらに約1億3200万人が飢餓に陥る可能性

FAO日比氏提供スライドより

 

三好:こうした状況のなか、セーブ・ザ・チルドレンは、昨年(2020年)、世界87ヶ国で食料支援を含むさまざまな緊急支援活動を行いましたが、日本でも、ひとり親家庭への食料応援ボックス提供などを行いました。FAOでは昨年どのような活動をされたか、お話いただけますか。

 

日比:FAOは他の国連機関などとともに、食料や栄養面で人々やサプライチェーンにどのような影響があるのか、データや情報の収集を行ったほか、これまでの知見や情報をもとに想定される影響を検討し、政策決定者に提言を行いました。また、自国の食料安全保障のために輸出規制をする国もありましたが、混乱を避けるために貿易活動を維持するよう各国に働きかけました。くわえて、各国の現地で市場やアクセスを拡大したり、現地での生産を活性化したりするために野菜の種苗を配って国内の生産活動を後押ししました。また、脆弱な立場に置かれる人々に対しては、政府が社会保障を行うよう働きかける活動も行いました。

 

三好:新型コロナウイルス感染症拡大に対する影響に対して、食料システムの安定という観点からさまざまな活動を展開されていたのですね。今後も新型コロナウイルス感染症の影響は続いていくことも予想されますが、今後、食料に関するより中長期的な課題はどのようなものだと捉えられていますか。

 

日比:新型コロナウイルス感染症のみならず、食料に関する問題の背景には、気候変動、紛争、経済停滞などさまざまな要因がありますが、なかでも着目すべきは食料のロスと廃棄の課題で、世界で生産された食料の約30%が廃棄されている現状があります。食料ロス・廃棄の問題は、「もったいない」だけでなく、食料生産のために使われた自然資源やエネルギーが無駄になることにくわえ、廃棄時には温室効果ガスを排出されるため深刻な課題です。農業・食料システムと気候変動は相互に関係するものであるため、この温室効果ガス排出を減らす食料システムへの移行(緩和策)と、さらなる気候変動がもたらす影響にも耐えていける食料システムの構築(適応策)が、重要課題だと捉えています。さらに、もう一つ重要なのは、失われている生物の多様性を守ることです。いま、「ワンヘルス」という人間・野生動物・家畜など生態系のすべての健康を関連づけて考えていこうという考え方が注目されていますので、これまで以上に分野横断的に課題を捉える必要もあります。そのためには、さまざまな機関とともにパートナーシップを強化していきたいと考えています。

2021年は行動の1年 国連食料システムサミットと東京栄養サミット開催の年

三好:さまざまな食料に関する課題や取り組みについてお話をしてきました。2021年の今年は、食料や栄養に関する大きな1年で、行動の1年とも呼ばれています。9月に国連食料システムサミット、12月には日本政府主催の東京栄養サミットがありますね。国連食料システムサミットについてお話してもらえますか。

 

日比:国連食料システムサミットは9月に国連事務総長が主催する大きなサミットで、各国の首脳が集まり、食料の生産や消費などのあり方を抜本的に改革するために行われる「対話」の場です。ここに至るまでに各国で国内対話を行い、多様なセクターと話し合いを重ねて今後のあり方を方向付けていくため、世界各国からの参加が不可欠です。農業・食料システムの抜本的変革なくしてSDGsの達成は望めません。そのため、サプライチェーン全体をその背景にある問題も含めて分野横断的に一括して考えようというのが、食料システムサミットの根底にある考え方です。

三好:一方で、12月に開催される東京栄養サミットは、世界中の各国政府、企業、国際機関、NGOなどが集まって「約束」する場で、各セクターがこれからの栄養改善に向けた行動を誓う場です。サミットのテーマは、1) 自然災害や気候危機、紛争の影響を受けるなど脆弱な立場に置かれた人々が増加することをうけて、栄養に関する課題に対してどのような取り組みを行うのか、2) 食料システムを変革し、人と地球を守りながらすべての人が安全に、そして十分な栄養を確保できる社会を作るために何をするのか、3) 各国の保健システムのなかに栄養の視点をどのように含めるのか、の3つで、そのどれかにについて具体的な行動などを約束することが求められる会議です。

私たち1人ひとりや、子どもや若い世代ができることは何か

三好:国連食料システムサミットや東京栄養サミットなど、さまざまな国際会議が行われるにあたり、さまざまな団体で皆さまの声を聞いて届ける活動があります。セーブ・ザ・チルドレンも積極的にそうした機会を提供共有していきます。ぜひ皆さまには、さまざまなプラットフォームなどを活用して声を上げていただきたいです。また、これからの時代を生きる若い世代の発信する言葉には、力があります。ぜひ、皆さまの声が世の中を変えると思って協力していただければと思います。セーブ・ザ・チルドレンも、子どもやユースの皆さまが発言することを積極的にサポートしていきますので、ぜひ一緒にやっていきましょう。

日比:国連の加盟国の声というのは、その国の人々の声からきているものです。ですので、ぜひ皆さまの声を日本の政策決定者に届けてください。政策決定者に注目してもらうためには、データやエビデンスをそろえること、そして国を超えた横のつながりをつくることも重要ではないでしょうか。国際会議が開催される機会に、グループで連携して声を出したり、若い世代やユースの皆さまは「次世代として抱える不安」を訴えたりするなどしてみてください。例えば、FAOは最近新しく大学や研究機関の若手の方とインフォーマルな集まりをつくって、次世代の人たちの懸念や考えを汲み取る試みをしています。他にもユース・グループなどやっているところもたくさんあるので、それらを利用して、皆さまの声を最大限に活かしていってください。

ローマの食料農業関連の3機関 IFAD:国際農業開発基金(International Fund for Agricultural Development)農業・食料生産プロジェクトへの資金提供をおこなう銀行 WFP:国連世界食糧計画(United Nations World Food Programme)緊急食糧援助 FAO:国連食糧農業機関(United Nations Food and Agriculture Organizarion)食料と農林水産業に関する専門機関 人道支援も開発もFAO日比氏提供スライドより

 

[1] 1945年10月に設立された組織。食料と農林水産業に関する専門機関で、食料安全保障の実現を目標としている。2020年にノーベル平和賞を受賞したWFPは、緊急食料援助を行う機関であり、相互補完的な関係にある。

※この記事の作成はボランティアの方にご協力いただきました。

 

 

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※この記事の作成はボランティアの方にご協力いただきました。            公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン事務局長 三好集 /国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所長 日比絵里子

※この記事の作成はボランティアの方にご協力いただきました。            公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン事務局長 三好集 /国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所長 日比絵里子

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