日本に暮らすひとり親家庭のおよそ半数が貧困状態におかれています。その背景や、ひとり親家庭が利用できる制度・支援を紹介します。
また、ひとり親家庭のために何かしたいという方や、現状や制度について理解を深めたい方にとっても、支援方法をはじめさまざまな情報を紹介しているのでぜひ最後までご覧ください 。
ひとり親家庭が貧困状態におかれやすい理由・背景
日本では、ひとり親家庭のうち48.1%、約2世帯に1世帯が相対的貧困下で暮らしていると言われています[1] 。その背景には何があるのでしょうか。
ひとり親家庭の場合、収入が低くなる傾向にあることが理由の一つとしてあげられます。
厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果[2] 」(厚労省ひとり親調査)によると、平成27年(2015年)のシングルマザーの平均年間収入は243万円、シングルファーザーの場合は420万円です。一方、厚生労働省「2019年国民生活基礎調査 [3]」では、子育て世帯の平均所得は745.9万円となっており、シングルマザーの収入の低さが際立っていると言えます。
そして、日本のひとり親家庭は、就労率が非常に高いですが、収入が低いという点も特徴的です。厚労省ひとり親調査でも、母子世帯の母の 81.8 %、父子世帯の父の85.4 %が働いています。しかし、母子世帯の場合は「正規の職員・従業員」が 44.2 %、「パート・アルバイト等」も 43.8 %と、非正規雇用者の割合が高くなっています。非正規雇用の場合、収入が安定しなかったり雇用環境が不安定であったりすることが多く、これが収入の低さにつながっています。セーブ・ザ・チルドレンにもひとり親家庭から多くの声[4] が寄せられています。
・ひとり親は一人二役(働き、家事育児)を頑張っています。非正規雇用でしか働けないのですが、体を壊すほど働いても月の手取り額が14万円の時もありました。(都内高校生2020[5] )
・面接で子どもが病気になったら、どうしますか?と、どこに行っても聞かれました。出来る限り、親の協力は得てますが、急な熱とかだと休まざるを得ない。結局、どこも駄目で派遣をしてます。(都内高校生2020)
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2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の影響による子育て負担の増加や収入の減少に対する支援策として、ひとり親世帯臨時特別給付金などが支給されました。しかし、感染症拡大が収まらないなか、ひとり親世帯の状況は一層厳しくなっています。
・昨年からコロナの影響も大きく、仕事がなくなり、アルバイトでもあったので雇用保険にもかけてないため、会社からなんの支援もなく、しばらく仕事のない生活でした。(高校生活2021[6] )
・派遣で働いています。派遣先も売り上げがおち、いつくびをきられてもおかしくない状況です。本当に不安で、自律神経失調症にもなりました。それでも生きるために休んではいられません。不安で不安でなりません。(応援ボックス 2020年12月[7] )
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ひとり親家庭の場合、子どもを1人で育てていることから、短時間の労働にならざるを得ない場合が多く、十分な収入を得られない傾向にあります。子育てや求人とのバランスで、非正規雇用として働かざるを得ず、収入が安定しないのです。
・収入減で、先が不安。仕事を増やすのにも子どもたちとの時間が無くなる。(応援ボックス 2020年12月)
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さらに、突発的なできごとで収入がなくなってしまう可能性もあります。傷病手当や失業保険など非正規雇用の場合は特に、緊急時に収入が保障されない場合が多く、急な病気やケガなどでさらに生活が不安定になることもあります。
また、元配偶者から養育費を受け取ることができず、養育費なしで子どもを育てているひとり親家庭も多く存在します。厚労省ひとり親調査によると、養育費についての取り決めができていないケースは全体の半数を超えます。
ひとり親家庭の生活に及ぶさまざまな影響
収入が低いことにより、経済的に困難なひとり親家庭の生活にはさまざまな影響が及んでいます。
・冷蔵庫の中が何もないことが子どもを不安にさせていたんだ、と申し訳ない気持ちでいっぱいでした。(応援ボックス 2020年12月)
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こうした食に関する切実な声がセーブ・ザ・チルドレンにも数多く届いています。
また、特に新型コロナウイル感染症の影響により経済的に厳しい状況が続いていることで、子どもに、いろいろな経験をあきらめさせる、希望をかなえられないと不安や葛藤を感じ、自分を責めている保護者もいます。
・お金がありません。娘に大学進学を諦めてもらい県外に就職しますが、その準備にかかる費用(が必要)。(高校生活2021)
・息子は世の中が不平等であると言っていて、東京の大学に入りたいと希望しているのですが、ひとり親の私には大学に入れてやるのは無理な状態なので、せめて受験だけでもさせてやりたくて。(高校生活2021)
・義務教育とはいえ細々とした物にお金がかかります。娘からは、おさがりがあればそれで良いよ、自分の貯めてるお金使ってと言われ涙が止まりませんでした。子どもにお金の心配させてしまって情けないのです。(新入学2021[8] )
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厚労省「平成27年度ひとり親家庭の生活状況に関する調査」[9]では、半数以上のひとり親世帯が子どもに対して十分な学校以外の教育費をかけられていないことがわかっています。これは進路選択にも関わり、子どもの将来の選択肢を狭めてしまう可能性もあります。
この他にも、将来への不安、相談したり頼ったりする人がいないことなどを訴える声も多く寄せられています。
・実は、食すらも困っているということは、周囲の目もあり、誰にも言えない。自治会の民生さんなどは、近すぎる存在だからこそ、なおさら知られたくない。行政にも相談しづらい。誰かに話だけでも聞いてもらえると、心が軽くなりそうだが、相談先がない。(頼れる身内も居ない。)(応援ボックス 2020年12月)
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ひとり親家庭の中には、日々の生活がぎりぎりのため貯蓄ができない世帯も多く存在します。厚労省ひとり親調査では、母子家庭の貯蓄状態について、預貯金額が50万円以下という世帯が39.7%と最も多いこともわかっています。
・この先また休業や時短営業になった場合、収入が半減してしまう。今回少ない貯蓄も底をついたので怖いと感じてます(応援ボックス 2020年12月)
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また、一般的に親の貧困は子どもにも連鎖しやすいと言われています。経済的な要因によって学びや成長の機会が制約されることで、進学や資格取得など将来に向けた準備が十分にできないため、十分な収入が得られなくなってしまうことがあるからです。
ひとり親家庭が活用できる制度・支援
経済的に困難なひとり親家庭の状況を改善するために、国や自治体が制度を整備することが求められます。 そうした制度のうち、今回は、経済的に困難なひとり親家庭が利用できる4つの制度を紹介します。
・児童手当
子育て世帯の生活の安定や、子どもの健やかな成長のためにつくられた国の制度です。日本に住んでいて0歳から中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の子どもを養育している人が対象です。給付額は、3歳未満の子どもは15,000円/月(一律)、3歳以上小学校修了前までは10,000円/月(第3子以降は15,000円/月)、中学生は10,000円(一律)になっています。お子さんが生まれたり、他の市区町村から転入したときは、現住所の市区町村に届け出をする必要があります。
・児童扶養手当
国がひとり親などを対象に行う公的支援制度で、要件に該当する子どもを育てるひとり親や祖父母などに支給される手当です。
子どもが18歳になった次の3月31日を迎えるまで受け取ることができます。世帯に子ども一人の場合の基準は、全額支給が43,160円、一部支給が43,150円〜10,180円までの額となっています(2021年4月現在)。
この制度を知らず、対象であるにもかかわらずしばらく利用していなかったという人もいますので、まだ利用していない場合は、対象に当てはまるかどうかをお住まいの自治体で確認してみてください。
・ひとり親家庭医療費助成制度
自治体が医療費を助成してくれる制度です。
各自治体で異なりますが、かかった医療費のうち1割の負担金を指し引いた金額が助成されるのが一般的です。ただし国民健康保険など各種健康保険に加入する必要がありますので、くわしくはお住まいの自治体に問い合わせてみてください。
・高等教育の修学支援新制度
ひとり親家庭に限りませんが、高校卒業後に進学を希望しており、住民税非課税世帯またはそれに準ずる世帯の学生が対象の制度です。
大学や短大、専門学校等の入学金・授業料が免除・減額され、生活費に関しての給付型奨学金が支給されます。国公立大学の入学金・授業料が実質無料、国公立短大・専門学校、私立大学・短大・専門学校についても大幅な減額となります。くわしくは文部科学省のウェブサイトをご覧いただくか、高校、大学などへお問い合わせください。
ひとり親家庭が利用できる制度を活用しよう、伝えよう!
このほかにも、ひとり親家庭日常生活支援事業や自立支援教育訓練給付金事業など、利用できる制度に関する情報が、厚生労働省のウェブサイトにくわしく載っています。ぜひご覧になってみて、対象となる制度があれば活用したり、周囲に必要としているひとり親家庭の方がいたら、「こういった制度があるみたいだよ」と伝えたりしてみてください。
民間団体の取り組みでは、セーブ・ザ・チルドレンも連携しているNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむが運営する子育てシングルの応援サイト「イーヨ」があります。ひとり親家庭が利用できる制度や、先輩シングルマザー・シングルファーザーの声など役立つ記事が分かりやすく載っています。
セーブ・ザ・チルドレンも、日本国内でのひとり親家庭への支援など、子どもの権利を実現するために活動しています。ぜひ私たちのサイトもご覧いただき、ひとり親家庭の状況について理解を深めつつ、活動を応援してください。
[2]厚生労働省「平成28年度全国ひとり親家庭等調査結果報告」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html
[3]厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html
[4]紹介している声は原文から全部または一部を抜粋し、文意が変わらない範囲で編集しています。
[5]新型コロナウイルス感染症対応・緊急子ども給付金 ~東京都内ひとり親家庭・高校生活サポート~受給世帯の声より
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3452
[6]セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金~高校生活サポート2021~
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3468
[7]新型コロナウイルス感染症対応 ひとり親家庭応援ボックス冬の緊急追加支援(2020年12月実施)利用世帯の声より
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3496
[8]セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金~新入学サポート2021~
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3468
[9]厚生労働省「平成27年度ひとり親家庭の生活状況に関する調査」
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/yuushikisya/k_2/pdf/s3.pdf