シリア難民の現状は?私たちが日本にいながらできることは?

皆さんは、シリア・アラブ共和国(シリア)という国を聞いたことがありますか。
2011年に国内で武力衝突が始まり、多くの子どもたちやその家族が、難民や国内避難民として国内外に避難しています。
シリア危機と呼ばれるこの状況は、2021年3月で10年が経ちました。

現在も状況は一向に改善の兆しが見えず、1,100万人にものぼる人たちが、国内外での避難生活を余儀なくされています。

また、そのうち約560万人が、シリア難民としてトルコやレバノン、イラク、ヨルダン、エジプトといったシリア周辺国で避難生活を送っています[1]

シリア危機が起こる前のシリアの人口は約2,200万人[2] だったため、総人口の半数以上が難民または国内避難民になったということになります。このページでは、世界的に深刻な問題の一つであるシリア難民と、シリア国内で避難を強いられている国内避難民について紹介します。

 

難民キャンプや避難先での暮らし

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10年にもおよぶシリア危機は、シリアに暮らす人たちの日常生活を奪いました。シリアはオリーブ栽培などが盛んな農業国でしたが、シリア危機が始まってからは、農業生産量が減り、食料自給率が低下しました。また、多くの物流ルートが閉ざされ物資の流通量も減ったことなどが影響し、物価の高騰が続いています[3]

さらに、2020年にはアメリカによるシリアへの制裁の影響で物価が急騰し、国内では、主食であるパンすら買えなくなり十分な栄養を取れず、栄養不良の状態に置かれる人々も増えています。

こうした状況のなか、2020年春以降は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が難民キャンプや国内避難民キャンプでも見られます。

難民キャンプや国内避難民キャンプでは、安全な水へのアクセスが限られているうえ、石けんも買えない人たちが多くいます。そのため、感染予防の基本とされる手洗いさえままならない状況です。

石けんを買うお金があったらその日に必要な食料を優先的に買うといった声も聞かれます。

また、こうした難民・国内避難民キャンプでは、限られた地域に多くの人たちが密集して生活しているため、ソーシャルディスタンスを確保することも難しい状況です。そして、シリア国内では、機能している病院は数えるほどしかなく、十分な医療器具も備わっておらず医療体制は脆弱です。

国内や国外に避難を強いられた人のなかには、女性も多く、性暴力や児童婚、強制結婚などのリスクにも晒されています[4]

 

シリア難民が避難している国や地域はどこ?

最初に紹介した通り、シリア難民の多くはシリア周辺国に避難しています。
シリア北部に隣接するトルコは、シリア難民を世界でも最も受け入れている国で、369万人が生活しており、その約半数は子どもたちです[5]

 

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2番目に多くのシリア難民を受け入れている国は、シリアの西側に位置するレバノンです。レバノンには86万人のシリア難民が生活していると言われています[6]

3番目の国は、シリアの南側に位置するヨルダンです。ヨルダンでは67万人のシリア難民が生活しています。そのほかにもシリアの東側に位置するイラクでは25万人、エジプトでは13万人のシリア難民が避難生活を送っています。

シリアの国外へ避難したシリア難民の暮らしはどのようなものでしょうか。たとえば、ヨルダンでは、シリア難民世帯の80%、レバノンではシリア難民世帯の89%が国際貧困ライン(1日1.90ドル)以下での生活[7]を余儀なくされています。トルコでも、都市部に居住するシリア難民世帯の64%[8]が国際貧困ライン近く、または以下で暮らしています。

また、ヨルダンにある世界最大のシリア難民キャンプ「ザータリ難民キャンプ」では、2万4,000基あるテントの54%に、屋根の水漏れや損傷箇所が見られるとされており、住環境は厳しいです[9]

これに加え、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、シリア難民の暮らしをさらに厳しいものにしています。トルコでは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い69%のシリア難民が職を失った[10]ほか、エジプトでも多くのシリア難民が収入源を失い、生活に必要な物品の購入や、家賃の支払いもままならないと報告されています[11]

 

 

シリア難民の現状

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次に、シリア難民の子どもたちが置かれている状況について紹介します。
レバノンでは、シリア難民の子どもが公立学校に通うことが認められており、シリアから避難してきた子どもたちの33%は就学していました[12]。学校に通う子どもの数が増えたことによる教員や教室の不足を解消するため、午前と午後の2部制を導入し、多くの子どもたちが授業を受けられるようにしています。

しかし、学校に通えている子どもたちは、1日3時間ほどに凝縮された授業内容と、さまざまな年齢と学力の生徒たちがいるクラスで、学習が困難だという声も聞かれます[13]。さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、世帯の経済状況悪化のため児童労働に従事しなければならない子どもや、休校により遠隔学習の環境が整っていないため学習の機会が奪われてしまった子どもも増えています[14]

また、シリア国内では、国内にある学校の3校に1校は、破壊されたり国内避難民の避難所として使用されたりしているため、学校として利用できていません。そして、通学途中に性的暴行の被害に遭うことを恐れる親によって家から出ることを許されない少女も多く、学校に通えない子どもの40%が少女です[15]

 

日本にいながらどのような支援ができる?

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このような厳しい状況に置かれているシリア難民を何らかの形で助けたいと感じる人も多いと思います。では、日本にいながらどのような支援ができるのでしょうか。

シリア難民への食料や教育、保健医療支援は常に必要とされています。そして支援を届けるには資金が必要です。セーブ・ザ・チルドレンでは、皆さんからのご寄付を、シリア国内や周辺国で行っている支援活動に活用しています。また、ボランティアとして、事務作業や資料の翻訳などに関わっている方もいます。ぜひ、私たちの活動へのご支援やご協力をお願いします。

また、難民をはじめ避難を強いられた人について理解を深めてくださった皆さんには、シリア難民と、彼らが置かれている現状を、家族や友人と話したり、こうした状況を知らない人たちへ伝えてほしいと思っています。たとえば、SNSなどを通してシリア難民について情報を拡散することによって、より多くの人に知ってもらうことにつながります。

 

シリア難民は世界の問題

 

CH145061_1シリア難民や国内避難民についてのニュースは日本であまり見かけません。しかし、このページで紹介したシリア難民や、シリア国内で避難を余儀なくされている子どもたちやその家族の状況は、世界の問題です。

まず、知ることから始めてみてください。そして、日本から自分自身ができることは何かを考えたり、関心をもち続けてください。

セーブ・ザ・チルドレンは、シリア国内外で避難を強いられた人たちが、平和で健康的な生活を取り戻すことができるように、そして子どもたちの生きる、育つ、守られる、参加する権利が保障されるように支援を続けていきます。


[1]UNHCR: UN High Commissioner for Refugees
[2]World Bank
[3]FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations, Counting the Cost: Agriculture in Syria after six years of crisis, 2017.
[4]UNICEF, シリア紛争10年:1万人の子どもが死傷:子どもへの影響、最新データ, 2021.
[5]Save the Children, Anywhere but Syria, 2021.
[6]UNHCR, Situation Syria Regional Refugee Response (2021年8月6日時点)
[7]UNHCR, UNICEF, WFP, News and press Release, 2020.
[8]Brookings, Turkey’s Syrian refugeesthe welcome fades, 2019.
[9]3RP, Regional Strategic Overview 2021-2022, 2020.
[10]Save the Children, Anywhere but Syria, 2021.
[11]UNHCR, Egypt fact sheet, 2020.
[12]セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン, 紛争、脆弱国、難民:教育支援のためにNGOが果たすべき役割, 2017.
[13]セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン, ザータリ難民キャンプ設営から5年~ヨルダンにおけるシリア難民の子どもたち教育事情, 2017.
[14]Save the Children, Anywhere but Syria, 2021.
[15]UNICEF, シリア紛争10年:1万人の子どもが死傷:子どもへの影響、最新データ, 2021.


Written by

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部 プログラム・コーディネーター 岡部和

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部 プログラム・コーディネーター 岡部和

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