【子どもの保護コラム】ケースマネジメントとは?―子ども一人ひとりに合わせた支援のかたち―

このコラムでは、子どもを暴力から守り、安心・安全を守る支援である「子どもの保護(Child Protection)」という分野を、さまざまな社会課題と掛け合わせながら、わかりやすくお伝えします。 子どもを取り巻く課題を知り、考え、行動につなげるきっかけになれば幸いです。他分野やセーブ・ザ・チルドレンの活動ともつながる場としてお届けします。

 

過去のコラムはこちら:

第一回:【子どもの保護コラム】いま世界が“体罰禁止”に向かう理由――4月30日「子どもへの体罰を終わらせる国際デー」に寄せて――

第二回:【子どもの保護コラム】スマホが日常の今、子どものオンラインの安全を考える

第三回:【子どもの保護コラム】災害や紛争の影響が誰にでも起こりえるいま、子どものこころの健康を守るには

 

 

災害や紛争、貧困、家庭内の問題などの背景により、暴力や虐待、搾取、ネグレクトにさらされ、心身の安全や発達が脅かされる困難な状況に置かれている子どもたちがいます。

第四回となる今回のコラムでは、そうした子どもたち一人ひとりの状況に合わせて支援を行う「ケースマネジメント」をご紹介します。日本では児童相談所などが中心となって行う「相談援助活動」とも呼ばれています。海外では、児童相談所のような仕組みが整っていない国も多く、セーブ・ザ・チルドレンの職員がケースマネジメントを担うこともあります。今回のコラムでは子どもの保護の分野で広く実践されている「ケースマネジメント」という支援のプロセスの実際の流れや関わる人々の大切な役割について分かりやすく解説します。

どんな子どもがケースマネジメントを必要としているの?

ケースマネジメントが必要とされるのは、次のような状況にある子どもたちです。

緊急事態にある子どもたち:災害、紛争、避難などの状況で、命や生活が危険にさらされている子どもたち

環境や状況によって権利や安全が脅かされている子どもたち:家庭内の問題や貧困などにより、心身の安全や基本的な権利が守られていない子どもたち

個別の保護支援が必要な子どもたち:一人ひとり異なる事情やニーズを持ち、画一的な支援では対応できない子どもたち

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ケースマネジメントの6つのステップ

ケースマネジメントは、子ども一人ひとりの状況に合わせて支援内容を考え、実行し、見直しながら、子どもの状況が改善されるまで支援する一連のプロセスです。それぞれの子どもが抱える事情や必要とする支援は異なることから、支援内容は一律ではなく、子どもや家族の背景に合わせたテーラーメイド。子どもの権利条約の基本原則の1つ「子どもにとって最もよいこと(第3条)」が何かを大切にしながら、子どもの意見や尊厳を尊重して進めています。

ケースマネジメントは6つのステップで行われます[1]

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この一連のプロセスは、社会福祉士や児童福祉を担当する行政職員(ソーシャルワーカーやケースワーカー)が担うことが多いですが、制度が整っていない国や災害直後などでは、研修を受けたNGO職員が担当することもあります。

①特定(見つける)〜②評価(理解する)

まず支援が必要な子どもを見つけ、子どもや家族の状況を理解するステップです。

①特定(見つける)のステップでは、子どもや家族に近い立場にある地域の人々が、子どもの状況に早期に気づき、支援につなぐ重要な役割を果たします。地域のボランティア(パラソーシャルワーカー)や保健師などが担うこともあります。相談・通報を受けたら、子どもや家庭の状況を理解するため、聞き取りを行います。

③計画(考える)〜④実施(支える・つなぐ)

次に、どのような支援が必要かを一人ひとりに合わせて計画し、実際に支援を行う段階です。子どもが抱える課題やニーズは多岐に渡るため、さまざまな専門機関との連携も不可欠です。例えば、性的搾取・暴力の被害に遭った子どもには、保健医療機関や警察・司法機関との連携が必要となるため、日ごろから多様な専門機関との連携体制を整え、適切な支援に迅速につなげることが大切です。

⑤モニタリング(見守る・見直す)〜⑥終結(まとめる)

子どもや家族の様子を定期的に確認し、必要に応じて支援内容を見直します。支援が必要な状況が改善され、定期的な確認が不要と判断された場合、支援は終了します。支援の終了を判断するのは大人だけではありません。子ども自身の声も聞きながら、慎重に行われます。

あなたにもできる“最初の一歩”―気づきと通報が子どもを守る―

多くの支援は、周りの大人の「気づき」から始まります。家族、先生、近所の人など、子どもと日常的に接する人が、ちょっとした変化に気づくことが大切です。

こんなサインがあったら、気にかけてみてください[2]

・いつも子どもの泣き叫ぶ声や保護者の怒鳴り声がする

・不自然な傷や打撲のあとがある

・衣類やからだがいつも汚れている

・表情が乏しい、活気がない

・夜遅くまで一人で遊んでいる

・保護者が小さいこどもを家に残して外出している

 

いつもの様子がわからないと、判断がつかずに迷うこともあるでしょう。でも、確証がないからと見て見ぬふりをせず、「あれ?」と思ったら、相談窓口に通報することが大切です。日本では「児童相談所虐待相談ダイヤル189(いち・はや・く)、通話料無料・24時間対応」や地域の相談窓口に相談してください。相談は匿名でも可能な場合が多く、専門家が対応してくれます。

貧困の中で未来を取り戻す—ウガンダの事例[3]

経済的に困難な状況の中でも、地域に根ざしたケースマネジメントが子どもの未来を再びつなぐことができた事例を紹介します。

 

ウガンダ北部の村で活動する地域ボランティアのアドッチさんは、近所に住む女の子Nさんが長く学校を休んでいることに気づきました。家庭を訪問すると、Nさんは両親を亡くし、祖母と二人で暮らしており、制服や学用品を買う余裕もない状態でした。生活の厳しさから、早く結婚して祖母を助けたいと話していました。

アドッチさんは状況を丁寧に確認し、まずNさんと祖母との信頼関係を築きました。その上で、児童婚のリスクと教育の重要性を説明し、学校や地域団体と連携して学用品の支援を調整しました。通学再開後も定期的に家庭を訪問し、出席状況やNさんの心理的な変化をモニタリングしました。

この継続的な支援により、Nさんは学校に戻り、「将来は医師かカウンセラーになりたい」と語るようになりました。

セーブ・ザ・チルドレンの取り組み

セーブ・ザ・チルドレンは、ケースマネジメントを通じて子どもを守ることができるよう、以下のような取り組みを行っています。

● 行政と連携し、ケースマネジメントを実施する体制や人材の強化

● 地域ボランティアの育成、役割の認知向上により、支援を必要する子どもの早期特定や予防の強化

● 専門機関との連携強化

● ケースマネジメントの提供による子どもの支援[4]

 

ここでは、取り組みの一部をご紹介します。

ウガンダ:虐待などを受けた子どもやその家庭が必要な支援を受けられるように

ウガンダ北西部アルア県・アルア市では、社会福祉オフィサーがバイクで地域を巡回し、村のボランティアであるパラソーシャルワーカーと連携して、ケースマネジメントを行っています。また、虐待などの被害を受けた子どもを一時的に保護し、必要な支援につなげるための拠点となる一時保護所を設置しました。このように、ケースマネジメントの仕組みを整備することで、子どもたちの安心・安全を守る環境づくりを進めています。

(詳しくは【ウガンダ】子どもの保護システム強化事業・2年目へをご覧ください)

202511_2ケース振り返り会議で社会福祉オフィサーがパラソーシャルワーカーに指導する様子

バングラデシュ:専門機関との連携強化に向けて

バングラデシュ南東部のコックスバザールで、子どもの法的権利をテーマにしたワークショップを開催し、裁判官、警察官、弁護士、社会福祉局職員など、子どもの保護に関わる多職種の関係者が集まり、「子ども法」の運用や子どもを支援するにあたっての課題について意見交換を行いました。ケースマネジメントの支援の一環として、法的支援を受ける子どもたちに適切な支援を提供できるように、具体的な行動について、それぞれの立場からの経験を共有しながら議論しました。

(詳しくは【バングラデシュ】裁判官、警察、弁護士など子どもの法的権利を守る多職種とのワークショップ開催をご覧ください)

ワークショップの様子

ワークショップの様子

 

ひとりでも多くの子どもが安心、安全に過ごせるように、そして守られていると感じられるように。私たちの『気づき』や大人の連携が子どもを支える力になります。セーブ・ザ・チルドレンは皆さんと一緒に、子ども一人ひとりに寄り添う支援を続けます。

 

<参考>一人ひとりに合わせた支援ってなに?子どもを守るケースマネジメント

 

[1] Interagency Child Protection Case Management Guidelines, Alliance for Child Protection in Humanitarian Action, 2024を参考に翻訳・作成。

[2] 児童相談所 虐待対応ダイヤル「189」|児童虐待防止推進特設サイト(2025年10月23日閲覧)

[3] 本ケースはThe Alliance for Child Protection in Humanitarian Action, Community volunteers and their role in case management processes in humanitarian contexts: A comparative study of research and practice, 2021.P18 ‐21. に掲載された実例をもとに再構成したものです。

[4] 私たちの支援では、現地のケースマネジメントの体制や人材を活かすことが大前提であり、セーブ・ザ・チルドレンの職員がケースマネジメントを担当するのは緊急時など、行政の役割を補完する一時的な措置です。

Written by

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部 子どもの保護エキスパート 宮脇麻奈

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部 子どもの保護エキスパート 宮脇麻奈

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