貧困の定義とは?世界の現状や支援方法を紹介

皆さんは、世界の貧困という言葉を聞くと、どのような問題や状況を思い浮かべますか。世界の貧困は、国際的に大きな問題の一つであり、日本も含むすべての国に関わりがあります。そして、貧困問題を解決するには、当事者だけではなく国際社会全体で取り組む必要があります。このページでは、はじめに貧困とは何か、なぜ貧困が生まれるのかについて考えた後、その問題についてどのように取り組めばよいのかを一緒に考えてみましょう。

貧困とは何か

国際貧困ライン

「貧困」とは、どのような暮らしのことを指すのでしょうか。さまざまな定義がありますが、国際的には、世界銀行が定義する「1日を1.90ドル未満で過ごす人」が、「極度の貧困状態」に置かれた人たちとされ、そうした状態の暮らしが「絶対的貧困」と言われます。1990年に初めて定義された時には、1日1ドル未満が基準となっていましたが、衣食住などにかかる生活費の上昇を踏まえ、定期的に見直されています[1]

一方、国によって最低限の生活を送るために必要な所得は異なります。そこで「所得が国民の中央値の半分に満たない人」、つまりその国に住む多くの人たちよりも所得が少ない状態のことを「相対的貧困」と呼びます[2]。日本など経済的に発展している国で問題になる貧困は「相対的貧困」であることが多いです。

また、所得以外の基準で貧困を捉える試みもあります。1976年に国際労働機関(ILO)が提唱したベーシック・ニーズ・アプローチでは、衣食住の充足だけでなく、水・衛生、公共交通、保健、教育といった基礎的な社会サービスを利用でき、雇用や社会参加が保証されている生活を「(人間の基礎的なニーズが満たされている)最低限の生活水準」としています[3]

多次元貧困指数(MPI)

近年では、国連が発行する「人間開発報告書」のなかで用いられている多元的貧困指数(Global Multidimensional Poverty Index:MPI)という指標もあります。

これはオックスフォード大学と共同で開発された指標で、保健・教育・生活水準の3つの側面から貧しさを捉えようとする指標です。たとえば、保健では「(世帯内で)18歳未満の子どもが過去5年間のうちに死亡している」、教育では「世帯内で誰も6年間の教育を修了していない」、生活水準では「安全な飲み水が手に入らないか、安全な飲み水を手に入れるために30分以上歩かなければならない」など、合計で10の指標が設定されており、うち3つ以上の項目に当てはまると「貧困状態にある」とされます。多元的貧困指数出典:Global Multidimensional Poverty Index | OPHI

 

最新のデータ[4]では、1日1.90ドル未満で生活する絶対的貧困層のおよそ2倍にあたる13億人が多元的貧困の状況に置かれているとされ、うち半数(6億4,400万人)が子どもです。これは3人に1人の子どもが多元的貧困状態にあるということを意味し、大人の2倍の割合となり、絶対的貧困における状況と同じです(詳しくは、「世界の現状」の項目で説明しています)。一部の国では子どもの貧困削減の割合よりも大人の貧困削減の割合の方が大きく、対策が不均衡であることが指摘されています。

さらに多元的貧困層の67%は中所得国におり、経済が発展すれば社会サービスが整い、貧困がなくなると単純に考えることはできません。持続可能な開発目標(SDGs)目標1で掲げられた 「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」ためには、貧困を引き起こす原因について知る必要があります。世界にはなぜ貧しい人とそうでない人がいるのでしょうか。

貧困の要因とその影響

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貧困の主な要因-なぜ貧困が生まれるのか

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが活動するアフガニスタンを例に考えてみます。アフガニスタンは中東・中央アジアに位置する内陸国で、古くはアジアとヨーロッパを結ぶシルクロードの拠点として発展してきました。しかし、1979年から続く紛争は、国内経済と社会に壊滅的な打撃を与えており、いまでは人口の56%が多元的貧困層にある世界で最も貧しい国の一つです。

国民の多くは農耕と牧畜で生計を立ててきましたが、相次ぐ紛争で住み慣れた土地を離れざるを得ず、220万人以上もの人々が難民として[5]、そして480万人以上が国内避難民[6]として[7]、厳しい生活を送っています。

国内避難民の多くは、都市部の貧困地区などに仮住まいし、日雇い労働などで日銭を稼ぐなどの不安定な避難生活を余儀なくされています。また、干ばつや洪水、地震、厳冬といった自然災害が頻発する国でもあり、2020年は10万人以上が自然災害による影響を受けて生活が困難になり、支援を必要としていました[8]

 

これに加えて、2021年8月中旬以降タリバンによる実質的な統治が始まってからは、政情不安や経済的な混乱によって人々が置かれた状況は悪化しています。そのため、安全を求めて避難を余儀なくされ、仕事を失い生活が苦しくなった結果、食べ物を十分に買えずに栄養不良になる人が増えたり、収入を得るために児童労働や児童婚などの対処法を取らざるを得ない家庭が増える可能性も懸念されています。国際連合人道問題調整事務所(OCHA)の発表(※2)によると、2021年だけで67万人以上が紛争などの影響で国内避難民となっています。

 

このように、世界では紛争や自然災害が原因で貧困に陥る人たちが大勢います。中東や北アフリカ地域では、特にシリアやイエメンで長期化する危機により「極度に貧しい」暮らしをしている人たちの割合が2015年の3.8%から2018年の7.8%へと増加しています[9]。また、世界銀行によると自然災害によって年間2,600万人が貧困に陥っています[10]

貧困が生まれる原因を理解するには、その国の歴史や政治経済、国際政治経済、地政学的な観点から考えていくことも重要です。アフガニスタンも、18世紀以降、大国の思惑に翻弄されてきました。経済的に「途上国」と呼ばれる国々が、かつて「植民地」と呼ばれていた国々と重なるのは偶然ではありません。また、豊かな天然資源が争いの火種となる場合もあります。

さらに気候変動問題が貧困削減の取り組みに与える影響も甚大で、気候変動による問題への対策を何も行わなければ2030年には6,800万人から1億3,200万人が貧困状態に陥ると推計されています[11]

IMG_CH1414237しかし気候変動の影響を受ける国が、気候変動の原因をつくったとは限りません。人々が貧困に陥る原因は複層的であり、当事者や当事国のみでは解決できる範囲を超えていることがあります。また、貧困状態に置かれているがゆえに新たな投資をする自由や余力がなく、貧困から脱出できない「貧困が貧困を生む」という悪循環も生じています。

貧困が及ぼす影響

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貧しい状態に陥るとどのような問題が発生するでしょうか。例えば、十分な食べ物や安全な水が手に入らない、十分な教育を受けることができない、安全な家屋で暮らすことができない、病気になっても病院に行けないなどの問題が考えられます。その結果、心身の健康を損ねたり、生計を立てるための選択肢が狭まったりする可能性が高まります。

貧困が子どもに与える影響は特に深刻です。発育・発達の重要な時期である幼少期に十分な栄養を取ることができないと体や脳の発達に悪影響を及ぼし、子ども自身の生活のみならず、社会としても損失となることが指摘されています。例えば、国家が栄養に対する取り組みに1ドル投資すると16ドルの経済効果があるという試算もあります[12]

また、貧しい世帯の子どもは児童労働や児童婚の被害に遭うリスクも高くなったり、紛争地域では、武装勢力に誘拐されたり、利用されたりする場合もあります。

例えば、幼い子どもが労働を強いられていたり、子どもの心身の発達や社会性・教育面での発達を阻害するような危険な労働を強いられたりする場合、それらは有害な児童労働とされています[13]。しかし、正当な対価が支払われる適切な労働環境下で就業最低年齢以上の子どもが従事するアルバイトなどは児童労働に該当しません。

児童労働は多くの場合、子どもから教育の機会を奪い、対価に見合わない過大な負担を心身にかけ、単純労働から抜け出せなくなるために生涯所得が低くなってしまい、結果的に貧困の連鎖を生み出します。

児童婚についてはどうでしょうか。児童婚とは18歳未満での結婚を指し、男性より女性の方が一般的に早すぎる結婚の対象となりがちです。就学年齢にある女性が結婚すると、教育の機会や就労の機会が妨げられるだけでなく、多くの場合、早すぎる妊娠・出産をすることになります[14]

体が未発達な状態での妊娠・出産は母子ともに大きな危険性を伴います。15歳から19歳の女性の死亡原因のトップは妊娠・出産に起因するものであり、若い母親から生まれてくる子どもは早産だったり、出生時に低体重だったりするなどの危険性が高いことが分かっています[15]。低出生体重や早産で生まれた子どもは早くに亡くなってしまったり、認知発達が不十分であったり、将来的に慢性疾患にかかるリスクも高いとされています[16]

このように子ども時代の貧困は、子どもの生まれ持った可能性を十分に開花させることを妨げ、子ども自身の将来の可能性を狭めるだけでなく、次の世代にも問題を残してしまい、ひいては社会全体の発展や安定に悪影響を与えかねません。子どもの方が大人よりも貧困状態に陥りやすいという事実と合わせて考えると、子どもに焦点を当てた貧困対策の重要性が分かります(詳しくは、「世界の状況」の項目で説明しています)。

世界の現状

絶対的貧困の状態で暮らしている人たち、すなわち1日を1.90ドル未満で過ごす人の割合は2015年から2017年の間に10.1%から9.2%に減少しました。人数でみても7億4,100万人から6億8,900万人へ減少しています。

しかしながら、貧困削減のペースは年々鈍化しており、このままでは2030年までに「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」と掲げられた持続可能な開発目標(SDGs)目標1の達成は危ういとされています。さらに新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、2020年だけで1億人を新たに絶対的貧困へと追いやりました。

また、絶対的貧困の状況にある人たちの半分は子どもたちです。子どもの割合は、世界人口の3分の1ということを踏まえると、子どもは「極度に貧しい」状態に陥りやすいと言え、子どもは大人よりも2倍以上絶対的貧困に陥る可能性があるとされています[17]

実際に、世界ではおよそ6人に1人の子どもにあたる3億5,600万人が極度の貧困状態に置かれ、10億人の子どもが教育や保健など、さまざまな面で貧困状態にあります[18]

貧困撲滅のためにできること

「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」と掲げたSDGs目標1は、その内容を具体的に定めたターゲットが7つ設定されています。そのいくつかを見てみましょう[19]

1-3. それぞれの国で、人びとの生活を守るためのきちんとした仕組みづくりや対策をおこない、2030年までに、貧しい人や特に弱い立場にいる人たちが十分に守られるようにする。

1-4. 2030年までに、貧しい人たちや特に弱い立場にいる人たちをはじめとしたすべての人が、平等に、生活に欠かせない基礎的サービスを使えて、土地や財産の所有や利用ができて、新しい技術や金融サービスなどを使えるようにする。

1-5. 2030年までに、貧しい人たちや特に弱い立場の人たちが、自然災害や経済ショックなどの被害にあうことをなるべく減らし、被害にあっても生活をたて直せるような力をつける。


この3つのターゲットで「貧しい人たちや特に弱い立場の人たち」とされるのは、例えば子どもや高齢者、障害のある人、妊婦、職に就けず困っている人たちなどのことです。これらターゲットからは、社会保険(健康保険、年金など)や社会的保護などの福祉制度を整えながら、教育、保健医療などのサービスや、安全な住居、安全な水、電気などの生活インフラを充足させ、誰もが平等に利用できるようにすることの重要性が見えてきます。


国全体として経済が発展しても、こうした状況に置かれた人たちの生活を支えるための適切な政策が実施されなければ、経済発展の恩恵が一部の人々によって独占されてしまったりして、国内の格差は拡大する一方になってしまいます。


そして、国際社会としては「開発途上国、特に最も開発が遅れている国で、『貧しさ』をなくすための計画や政策を実行していけるよう、いろいろな方法で資金をたくさん集める。(ターゲット1-a)」ために、十分な資金を拠出したり、投資を拡大したりすることが求められています。紛争や自然災害が貧困を生む大きな要因であることを考えると、平和(SDGs目標16)や気候変動(SDGs目標13)への取り組みを継続していくことも重要です。

小さな支援が命を守る!

セーブ・ザ・チルドレンは子どもの貧困問題解決に向けた事業を始め、子どもたちの命が守られ、育ち、学び、参加できる世界の実現を目指し活動を実施しています。世界の貧困問題に対して、私たち一人ひとりができることはあります。セーブ・ザ・チルドレンのウェブサイトをぜひご覧いただき、私たちの活動へのご支援やご協力をお願いいたします。

 

[1] FAQs: Global Poverty Line Update (worldbank.org)
[2] https://data.oecd.org/inequality/poverty-rate.htm
[3] ILO, Employment, Growth and Basic Needs: a One World Problem (Geneva 1976)

https://www.ilo.org/public/libdoc/ilo/1976/76B09_199.pdf
[4] OHPI, UNDP, Global Multidimensional Poverty Index 2020
https://ophi.org.uk/wp-content/uploads/G-MPI_Report_2020_Charting_Pathways.pdf
[5] UNHCR, Operational Data Portal: https://data2.unhcr.org/en/situations/afghanistan
[6] 国内避難民とは内戦や暴力行為、深刻な人権侵害や、自然もしくは人為的災害などによって家を追われ、自国内での避難生活を余儀なくされている人々を指します。2019年には新たに紛争で850万人、自然災害で2,490万人、のべ3,340万人が国内避難民となり、全世界で5,080万人という記録的な数に達しました。国内避難民 | OCHA (unocha.org)
[7] https://reliefweb.int/report/afghanistan/afghanistan-humanitarian-response-plan-2018-2021-2020-year-end-monitoring-report
[8] https://reliefweb.int/report/afghanistan/afghanistan-humanitarian-response-plan-2018-2021-2020-year-end-monitoring-report

(※2)https://reliefweb.int/report/afghanistan/afghanistan-weekly-humanitarian-update-18-24-october-2021

[9] World Bank. 2020. Poverty and Shared Prosperity 2020: Reversals of Fortune. Washington, DC: World Bank. doi: 10.1596/978-1-4648-1602-4. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0 IGO
[10] https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2016/11/14/natural-disasters-force-26-million-people-into-poverty-and-cost-520bn-in-losses-every-year-new-world-bank-analysis-finds
[11] World Bank. 2020. Poverty and Shared Prosperity 2020: Reversals of Fortune. Washington, DC: World Bank. doi: 10.1596/978-1-4648-1602-4. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0 IGO
[12] International Food Policy Research Institute. 2015. Global Nutrition Report 2015: Actions and Accountability to Advance Nutrition and Sustainable Development. Washington, DC. https://globalnutritionreport.org/
[13] https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act04_02.html
[14] Child marriage - UNICEF DATA

https://data.unicef.org/topic/child-protection/child-marriage/
[15] https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/adolescent-pregnancy
[16] https://www.who.int/nutrition/topics/globaltargets_lowbirthweight_policybrief.pdf

(2021年7月時点で確認)
[17] 極度の貧困率は18歳以上の人口では7.9%であるが、18歳未満では17.5%である。Silwal, Ani Rudra; Engilbertsdottir, Solrun; Cuesta, Jose; Newhouse, David; Stewart, David. 2020. Global Estimate of Children in Monetary Poverty : An Update. Poverty and Equity Discussion Paper;. World Bank, Washington, DC. © World Bank.https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/34704 License: CC BY 3.0 IGO.
[18] https://www.unicef.org/social-policy/child-poverty
[19] 本ターゲットの和訳はユニセフ協会が提供する子ども向けのSDGs学習サイト、SDGs Clubのサイトからお借りした。

https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/1-poverty/

 

 

Written by

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 プログラム・コーディネーター  瀬戸口千佳

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 プログラム・コーディネーター  瀬戸口千佳

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