学校に通えない子どもたちは世界にどのくらいいるでしょうか?その理由と問題について紹介します

2015年に持続可能な開発目標が採択され、その目標4 (SDG4)では、2030年までの普遍的な初等・中等教育[1] の提供が約束されました。しかし、学校に通っていない子どもの人数は一向に減少していません(UIS, 2019)。

 

このページでは、その理由を6点紹介します。学校に通えないと、貧困から抜け出すことが難しく、貧困の連鎖につながる可能性が高まります。

学校に通えない子どもたち

IMG_S_CH1605057子どもたちが暮らす家々の様子(マダガスカル南部)

 

2018年の統計では、学校に通っていない子ども(非就学児/不就学児)は、世界で2億5,840万人います(UIS, 2019)。非就学児が最も多い地域のサハラ以南アフリカでは、約3人に1人(31.2%)の子どもが学校に行っていません(World Bank, 2020)。

就学率

初等(おおむね5歳-7歳から11歳-12歳まで)・中等教育(11歳-12歳から18才-19歳)の就学率[2]は、この表の通りで、高所得国・低所得国の間で大きな差があります(黒田,横関,2005;World Bank, 2020)。

純就学率 高所得国 低所得国
初等教育 96%(2018) 81%(2017)
中等教育 91%(2018) 34%(2018)

ジェンダーによる違い

さらに、ジェンダーによる違いも見られます。高所得国では、初等・中等教育の就学率において男女平等がほぼ実現できているのに対し、低所得国では、男女間で初等・中等教育の就学率に約5%の違いがあります。

 

低所得国全体では、女子は就学に対して比較的障壁が大きいといえます(World Bank, 2020)。女子の非就学の多くは、社会の宗教や文化に関係が深く、家事労働・児童婚・若年出産などに起因します。

 

また、女子教員の不在が、女子の就学を阻んでいる国もあります(黒田,横関,2005)。

純就学率 高所得国 低所得国
初等教育 96%(2018) 96%(2018) 83%(2016) 78%(2016)
中等教育 90%(2018) 91%(2018) 36%(2018) 31%(2018)

学校に通っていない理由とは?

ここからは、これまでに説明した視点以外で、子どもたちが非就学となる主な理由を6点説明します。これら以外にも理由はたくさん存在しますが、非就学などの教育課題を考えるうえでのひとつの見方として読んでいただければと思います。

就学への物理的な障壁

農村部では学校の数が少なく、家から遠すぎて通えないことがあります。また、トイレなどの水・衛生環境が整備されておらず、通学をためらったり、学校がバリアフリー化されたりしておらず、障害のある子どもが就学に困難を感じるケースがあります。

就学開始の遅れ、留年制度

開発途上国では、就学開始が遅れること、たとえば、小学1年生が6歳で始まる国で、7歳以上が1年生に入学することが珍しくありません。

 

また、成績や出席日数など一定の基準を満たさない限り初等・中等教育でも留年となる国も多くあります。

 

そして、周りの生徒と年齢差が大きくなるにつれ、心理的な障壁などの要因で、中途退学してしまうことがあります。

学校に通うことによる経済的負担

多くの発展開発途上国では、授業料のみが無償化されており、その他の費用(制服代や筆記用具代など)を家庭が負担しないといけません。これが家計への負担となり、就学を諦める子どもたちもいます。

 

また、子どもが家庭内外の貴重な労働力とみなされている場合が多々あり、学校に行かせない選択をすることがあります(黒田,横関,2005)。

保護者や家庭にとっての学校に通う「価値」

教師の不足や給与の安さ、教員養成制度や給与支払い制度の不十分さから、学校に行っても教師がいなかったり、授業の内容の質が高くなかったりする場合があります。

 

また、カリキュラムが自身の生活改善に直結しないと感じたり、そもそも母語でない言語で教育が提供されたりすることもあります。

 

就学年齢人口が多いサハラ以南アフリカなどの地域では、1クラスの生徒が基準の何倍にもなっていたり、シフト制により短い時間しか教育を受けられないことも多くあります。

 

このように、学校で提供される教育の質や、適切な環境が整っていないなどの理由により、学校に行かないという決断につながる可能性があります。

緊急事態や長引く危機の影響

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南スーダンのボルで暮らす一家。
ひどい洪水や、武装グループから避難した経験があります。
父親を亡くし、母親は仕事がないため、13歳のアチョルさん(写真左奥)はセーブ・ザ・チルドレンから教育費の支援を受けています。

 

紛争や自然災害などの緊急事態や、こうした状況が常態化した「長引く危機」の状況では、社会制度や学校などのインフラが崩壊したり、居住する国・地域から避難しないといけなくなることで、通学を継続することが困難になりやすくなります。

感染症の拡大

2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の流行が、教育の機会の保障に及ぼす影響は甚大です。

 

2021年5月時点で、26ヶ国の学校が休校、55ヶ国の学校が部分的休校(一部地域・学年のみ再開)の状態にあります。

 

多くの国では、対面教育の代替として遠隔教育を提供していますが、全世界の子どもの

40%がインターネットへのアクセスがありません。

 

一度学校教育から切り離された何百万もの子どもたちが、学校再開時に復学できない可能性が懸念されています(Save the Children, 2021)。

教育が受けられないことで起こる問題とは?

近年は学校以外の場所でも学習機会はありますが、どのような立場の人でも平等に受ける権利がある学校教育の重要性は軽視できません。子どもは非就学により、将来どのような影響を受けるでしょうか。

読み書き、計算ができない

読み書きができないと、限られた範囲でしか生活できなくなり、病気や災害など、不測の事態の際に対応が難しくなります。

 

また、計算ができないと、日常生活に支障をきたすだけでなく詐欺などに遭いやすくなったり、就業機会も制限されます。

必要な知識が得られない

読み書きができないと、郵便物や掲示物などの情報を理解できず、重要な情報を逃す可能性が高まります。

 

さらに、パソコンやタブレット機器などの技術活用の方法を学んでいなければ、インターネットなどを使用するのも難しく、さらなる情報格差につながります。

進路を選べない

子ども自身が、ある進路を希望していたとしても、その実現に必要な教育を受けていなければ、選択する機会さえ与えられない可能性が高まります。

 

一部の職業などには、学校教育は必要ないように思えるかもしれませんが、その職業を何らかの理由で断念せざるを得なくなったとき、基礎教育を十分に受けていないことで他の就業機会が制限される危険性もあります。

社会参加が制限される

読み書きをしたり、知識を新たに得ることができないと、選挙などの機会で自分の意思を表明したり、公共サービスを受けるうえで障害になることがあります。

まとめ

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非就学児であった特別なニーズを持つ子どもが、当事業の取り組みを通じて家庭学習する様子。
姉が妹の学習を支援している。(2020年5月)

 

持続可能な開発目標(SDGs)で、普遍的な初等・中等教育の提供がうたわれている一方、新型コロナウイルス感染症の拡大も相まって、その達成は難しくなってきたと言われています。

 

非就学による負の影響を受ける子どもが少しでも減るように、セーブ・ザ・チルドレンは

2021年8月現在、レバノンやイエメン、モンゴル、日本などで教育支援を行っています。ぜひその内容について、こちらから確認ください。

 

[1]中等教育は前期中等教育と後期中等教育に分けられます。日本の中学校は前期中等教育、高等学校は後期中等教育に該当します。このコラムではSDG4に即し、後期中等教育までを受けられない子どもたちについて取り上げます。

[2]学齢期の子どもの総数に対する就学者の数を示す指標。

 

出展

 

 

Written by

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 モンゴル駐在員 松本ふみ

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 モンゴル駐在員 松本ふみ

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