ロヒンギャ難民問題とは何か?

ロヒンギャ難民問題とは何か?難民の現状について詳しく解説

皆さんは、ロヒンギャ難民問題について、ご存知でしょうか。

ロヒンギャ難民問題は、ミャンマーからバングラデシュを始めとする周辺国に避難を強いられているロヒンギャの人々の人権をめぐる国際問題です。


2017年8月に、過去に類を見ない規模でロヒンギャの人たちが故郷から避難しましたが、現在も問題の解決にはいたっていません。また、2021年2月以降のミャンマー国内での情勢悪化も影響し、ロヒンギャ難民の問題はさらに複雑化しています。

このページでは、ロヒンギャ難民問題と、ロヒンギャの人々の現状を紹介したいと思います。

ロヒンギャ難民問題とは

2017年8月25日に、ミャンマー西部ラカイン州北部で起こった大規模な暴力や人権侵害により多くのロヒンギャの人々がバングラデシュに避難しました。彼らの多くは、バングラデシュ南東部のコックスバザール県で避難生活を送っています。その地域には、すでにロヒンギャ難民キャンプがあり、2021年9月末時点で90万2,947人(うち約半数は子ども[1])が避難生活を送っています。

ロヒンギャ難民問題の現状

大勢のロヒンギャの人たちが周辺国などへ避難してから4年以上が経った2021年10月現在も、ロヒンギャ難民のミャンマーへの帰還の目途は立っていません。

最も多くのロヒンギャ難民が居住するバングラデシュにおいては、2018年11月と2019年8月に、バングラデシュ政府が、ロヒンギャ難民の帰還計画を実行しましたが、帰還先であるミャンマーでの安全と尊厳、権利が保障されていないため、帰還した人はいませんでした。

ロヒンギャの子どもたちやその家族などは、難民キャンプにおける簡易的な住居での困難な生活を余儀なくされており、安全で、自発的、そして尊厳が守られたミャンマーへの帰還のために、この問題の根本的解決策を探ることに加え、現在生活している難民キャンプでの生活環境を改善する必要もあります。

食料・水

難民キャンプでの食料は、主にセーブ・ザ・チルドレンをはじめとした人道支援団体により配付されています。野菜や肉、魚などの生鮮食品は、長期間保存することができないため、油や砂糖、塩、小麦、米、豆などが主な食料支援の内容であり、これらの食料のみでは、栄養を十分に摂取することができません。

そのため難民キャンプでは生鮮食品購入用のバウチャー(引換券)を配付し、地域の販売店から生鮮食品を購入できるような取り組みも始まっていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で一時中断されてしまいました。飲料水は、難民キャンプ内に設置された井戸から汲み取り、自身の住居に運んでいます。

Allison Joyce

医療・衛生

難民キャンプでは、バングラデシュ政府が定めたガイドラインに則って医療施設が配置されており、一次医療を提供するヘルスポスト(簡易的な診療施設)や、24時間分娩も対応しているプライマリ・ヘルスケアセンターがあります。

難民は無料で診療を受けることができますが、人口に対して施設が十分でない地区もあったり、移動手段が確保できなかったりすることも多く、十分な医療環境が整っているとは言えません。

また、各地区に、共有のトイレや水浴び場などがありますが、定期的な管理などが行き届いていないところも多くあります。

Rik Goverde

親と離ればなれになった子どもたち

2017年に、大勢のロヒンギャの人たちが故郷から避難を強いられたときには、避難の途中で、親と離ればなれになった子どもや、親を亡くした子どもも多く、親や養育者を伴わないで避難生活を送る子どもたちが多くいます。

2017年以降バングラデシュに避難しているロヒンギャ難民の家族は15万2,444世帯いますが、そのうち子どもが世帯主の家は、2018年時点で5,546世帯にのぼると言われています[2]。このような世帯では、さまざまな支援情報を得たり、理解したりすることが難しく、支援が利用できないこともあります。

教育

ミャンマーで生活していた際には、教育を受けられないロヒンギャの子どもたちも多く、読み書きができない子どももいましたが、難民キャンプではNGOなどが開設した学習センターで教育を受けることができます。2020年には、ミャンマーの教育カリキュラムを難民キャンプで実施する許可が出ました。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、難民キャンプの学習センターは1年半もの間閉鎖され、子どもたちの教育を受ける機会の確保はさらに困難になりました。2021年9月22日に学習センターは再開しましたが、授業時間は週に1日2時間と大幅に短縮され、これまでの学習の遅れを取り戻すには十分ではありません。

Kristiana Marton

住居

ロヒンギャ難民キャンプでは、ロヒンギャの人々はシェルターと呼ばれる住居に暮らしています。シェルターは、一時的な住まいとして考えられているため、竹やビニールシートなど、特定の素材のみ使用を許可されています。しかし、難民キャンプのあるコックスバザール県は、毎年モンスーンやサイクロンの影響で洪水が発生し、シェルターを失う難民は多くいます。難民キャンプで暮らすロヒンギャの人たちにとって、安心・安全に過ごすことのできる住居を確保することも課題となっています。

1-2_Complete Shelter

ロヒンギャ難民問題は解決できるのか

ロヒンギャ問題が世界的に注目されるきっかけとなったのは、2017年8月25日に大勢の人たちがミャンマーから避難を強いられた出来事がきっかけでしたが、2017年以前も多くのロヒンギャの人々が難民となっており、この問題は根深く単純ではありません。

そして、ミャンマーへの帰還の目途が立たないだけでなく、バングラデシュでの生活基盤も確立されていません。

これに加え、2021年3月21日には、難民キャンプ内で大規模な火災が発生しました。難民キャンプ内の新たな課題にも対応する必要があり、問題はより複雑化深刻化しています。

あなたにできること

一人ひとりの力では、ロヒンギャ問題の直接的な解決は難しいです。しかし、ロヒンギャの人たちは、今も困難な状況に置かれており、支援が必要です。支援方法は、さまざまな方法がありますが、知ること、伝えること、人道支援を行うNGOなどに寄付という形で支援することも可能です。次の項目でセーブ・ザ・チルドレンのロヒンギャ難民支援を紹介します。

セーブ・ザ・チルドレンとロヒンギャ難民問題

セーブ・ザ・チルドレンでは、2017年以前からロヒンギャ難民キャンプのあるバングラデシュ・コックスバザール県で支援をしており、たくさんのロヒンギャの人たちが避難してきた際も、いち早く支援を拡大し、現在にいたるまでロヒンギャ難民を支援しています。

ロヒンギャの子どもたち

新型コロナウイルス感染拡大前は、難民キャンプのロヒンギャの子どもたちは、日中は、安心・安全に過ごすことができる空間「こどもひろば」でレクリエーション活動に参加したり、学習センターで教育を受けたりするなどして過ごしていました。感染拡大後は「こどもひろば」で遊ぶ人数が制限されたり、学習センターは閉鎖されたりしており、子どもたちの居場所は限られています。

また、最近は難民キャンプ内の火災が多発しており、2021年3月21日には大規模な火災が発生しました。この火災により、162ヶ所の学習センターが焼失し、1万3,226人の子どもたちが教育を受けることができなくなっています。また、セーブ・ザ・チルドレンが運営する学習センターも18ヶ所が焼失し、本や教材などすべてが失われました。ロヒンギャ難民の教員は次のように語ります。
「私も妻も、学習センターで教員をしていますが、火災は恐ろしい体験でした。子どもたちの悩みを聞いたり、一緒に過ごしたりしてきた場所は失われ、自分たちの持ち物、本やノート、黒板、教材などすべてが焼失しました。

子どもたちは、強いストレスを抱えていると感じます。私たちは、生徒を元気づけるために毎日訪問し状況を把握していますが、子どもたちはほとんどの時間極度の空腹状態に置かれ、衣類を必要としている状況のため、勉強の話はしていません。火災で他のキャンプに避難した人たちは、いま元のキャンプに戻ってきており、防水シートの下で夜を過ごしています。

いつになったら学習センターが再建されるのか、だれが支援してくれるのか、どうやってこの苦しみを乗り越えていけばよいのか分かりません。」

支援・活動内容

食料支援:難民キャンプの制約上、ロヒンギャ難民は自身でお金を稼ぐ生計活動が許可されていないため、4年たった今でも食事のほとんどを支援に頼っています。2020年には6万6,890人に食料支援を実施しました。また、火災が発生した直後は被災者に温かい食事を提供しました。

保健医療支援:セーブ・ザ・チルドレンは、8ヶ所のヘルスポストと呼ばれるクリニック、1ヶ所のプライマリ・ヘルスケアセンター、1ヶ所の新型コロナウイルス感染症隔離治療施設を運営しています。各保健医療施設で、患者の治療や専門機関への依頼を行っています。また、地域保健ワーカーと呼ばれる難民ボランティアを育成しています。地域保健ワーカーは、難民キャンプ内を家庭訪問することで、医療支援が必要な人を特定して支援が得られるようにサポートを行います。

栄養支援:母子栄養支援では、難民キャンプの保健施設や、地域保健ワーカーの家庭訪問により、子どもや母親の栄養状態の確認を行っています。上腕径を専用のテープで測ることで、栄養状態を簡単に判断することができます。これにより低栄養状態と判断された子どもや母親に対しては、高カロリーのビスケットなどを提供するほか、適切な母乳育児の方法などの知識・技術も提供しています。2020年には、4万32人に母子栄養支援を実施しました。

Hanna Adcock水・衛生支援:難民キャンプ内に、給水施設やトイレ、水浴び場などを設置し、継続的に管理もしています。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、これまで行ってきた衛生啓発活動をより重点的に実施しています。

将来的には、ロヒンギャ難民が自立してトイレや水浴び場などの施設の管理を行うことができるようにボランティアグループを形成し、能力強化も行っています。2020年には、1万5,659人に水・衛生支援を実施しました。

GMB Akash Panos Pictures子どもの保護:セーブ・ザ・チルドレンでは、児童労働や、虐待、児童婚などの問題を抱える子どもたちに対して、支援を行っています。この活動を子どもの保護といいます。具体的には、ケースマネジメントがあります。ケースマネジメントでは、児童労働や虐待などの問題を抱える子どもが、その問題を解決できるよう個別サポートを行います。また、子どもだけでなく、問題を抱える子どもの家族や養育者など子どもを取り巻く環境を改善することも目指しています。2020年には、7万5,167人に子どもの保護の支援を実施しました。

教育支援:難民キャンプ内では、学習センターを設置し、教育支援を実施してきました。2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて学習センターは閉鎖され、一時はキャンプ内での教育支援が中断しました。このような状況下でも、子どもの学ぶ権利を守り教育を継続できるように、家庭での学習環境を整備し、2020年には1万4,005人に自宅学習支援を行い、7万5,420人の子どもたちにラジオでの授業を届けました。学習センターは2021年9月に再開されましたが、センターでの学習時間は限られているため、家庭で学習支援を引き続き行っています。
CH1366981住居支援:難民キャンプにおけるシェルターは、非常に耐久性が低いため、倒壊した場合は、建て直しが必要なほか、定期的な修繕やメンテナンスが必要です。セーブ・ザ・チルドレンは、他の人道支援団体とともに、限られた資源を活用したより耐久性の高いシェルターの設置方法を検討し、最新の情報に基づいて新たなシェルターを建てる支援やすでにあるシェルターの修繕支援を実施しています。また、ロヒンギャ難民自身が、自身のシェルターをメンテナンスできるように知識や技術の提供もしています。

生活必需品配布:生活に必要な服や調理器具などの支援も行っています。2021年3月の大規模火災後は、所持品をすべて焼失したロヒンギャ難民が多く、衣服や乳幼児のおくるみなどの生活必需品の配布を早急に実施しました。

以上の支援を通して、これまでに101万2,157人の子どもたちとその家族に支援を届けました。

子どもたちのストーリー

これまでに支援を届けた子どもたちや家族から届いた2つのストーリーを紹介します。

ルバイヤさんは2017年にミャンマーでの暴力から逃れて、バングラデシュに来ました。ルバイヤさんは、3歳半のアミナさんと、生後22ヶ月のラハトさんと暮らしています。

ルバイヤさんはロヒンギャ難民キャンプでの生活について、次のように話します。
「私たちはとても密集した地域に住んでいます。私たちが暮らすシェルターは5つのシェルターに囲まれています。子どもたちが遊ぶスペースはありません。雨が降ったら夜は寝ることもできません。このような家で生活するのはとても難しいです。シェルターの中も外も地面はいつもぬかるんでいます。また、家には窓がないため、太陽の光は入ってきません。自分たちがこんな生活を送ることになるとは思いませんでした。ミャンマーでは裕福ではなかったものの、きちんと眠ることができる家には住むことができていました。」

 

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ある日、ルバイヤさんはラハトさんを連れてセーブ・ザ・チルドレンのヘルスポスト(クリニック)を訪れました。ラハトさんは高熱で、咳をしており、呼吸困難に陥っていました。

ルバイヤさんは当時のことを振り返り、こう話しました。
「5日前からラハトは咳をし始めました。その次の日には鼻水が出るようになり、その次の日には熱が出ました。私は、子どもは季節によって体調が変化するため、すぐに治るだろうと思っていました。実際に、次の日には元気に遊んでいました。しかし、5日目になって熱が急に上がり、夜中には呼吸困難になりました。すぐに、苦しいのだろうと分かりました。

とても恐ろしく、一睡もすることができませんでした。翌朝になってヘルスポストに連れてきました。検査の後、医師がラハトは肺炎にかかっていると言い、薬を処方してくれました。薬を飲み始めると徐々に回復し、2週間で完璧に治りました。

また、ヘルスポストを受診後、毎日セーブ・ザ・チルドレンのスタッフや地域保健ワーカーがラハトの様子を見に来てくれました。こうしたサポートもあり、私はより安心しました。というのも、ミャンマーにいた頃は、風邪をひくと親戚が様子を見に来てくれたからです。このような困難な状況でも、ミャンマーの家にいるように感じました。」

 

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7歳のジュナイドさんは3月21日に発生した大規模火災の被害に遭いました。3人の兄弟と4人の姉妹がいますが、火災によりシェルターが燃えてしまったため、他の家族と一緒に暮らしています。火災の前、ジュナイドさんは、セーブ・ザ・チルドレンが運営する子どもと青少年のためのセンターの活動に参加していました。

ジュナイドさんは当時のことを話します。
「私には3人の兄弟と4人の姉妹がいます。火事から逃げるときに、足の裏に釘が刺さってしまい、痛みで歩けなくなってしまいました。また、歩けない上、病院も燃えてしまったので、薬が手に入りませんでした。」

彼が負傷した足は、セーブ・ザ・チルドレンのモバイル医療チームが手当を行いました。また、ジュナイドさんはセーブ・ザ・チルドレンが開設した臨時のこどもひろばにも参加しています。

危機から4年が経った現在も、難民キャンプでの生活は困難であり、加えて火災や洪水などの災害の被害もあります。ロヒンギャ難民問題で、支援を必要としている子どもたちやその家族が安心・安全に暮らすことができるように、セーブ・ザ・チルドレンは、今後も支援を継続していきます。

世界の子どもたちの様子をより知りたい方へ

このページでは、ロヒンギャ難民について、またロヒンギャの子どもたちの状況について紹介しました。セーブ・ザ・チルドレンでは、私たちの支援内容を深く知ってもらうために、ウェブサイトなどで活動を紹介しています。また、このページを読んだことをきっかけに、ロヒンギャ難民について関心を持ってくださった方は、セーブ・ザ・チルドレンの活動へのご支援も、ぜひお願いします

 

[1]UNHCR, Operational data portal, refugee situations, Refugee Response in Bangladesh.
[2] The Straits Times, Part 2 Rohingya refugee crisis: Inside Cox's Bazar, the world's largest refugee camp.

 

 

Written by

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 プログラム・コーディネーター 加藤 笙子

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン  海外事業部 プログラム・コーディネーター 加藤 笙子

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