子ども(児童)虐待(以下、子ども虐待)は、社会においてとても深刻な問題です。2023年4月に発足するこども家庭庁においても、子ども虐待から子どもを守ることは重要な子ども施策の一つになっています。このページでは、その定義や現状、行政や民間団体などが提供する支援について紹介します。
子ども虐待とは?
はじめに、子ども虐待の定義について説明します。
児童虐待防止法第2条において、子ども虐待とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護する者)がその監護する児童(18歳に満たない者)に対して行う行為[1]として定義されています。また、虐待の行為は、以下の4つに分類されています。[2]なお、ほとんどの虐待の事例[3]では、以下の行為が重複して起こっています。
身体的虐待
- 打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷、たばこなどによる火傷などの外傷を生じるような行為
- 首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、食事を与えない、戸外に閉め出す、縄などにより一室に拘束するなどの行為 など
心理的虐待
- 言葉による脅かし、脅迫、子どもの自尊心を傷つけるような言動
- 子どもを無視したり、拒否的な態度を示したりすること
- 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをすること
- 配偶者やその他の家族(子どものきょうだい含む)などに対する暴力や暴言(ドメスティックバイオレンス:DV) など
性的虐待
- 子どもへの性交、性的暴力
- 性器や性交を見せる行為
- ポルノグラフィーの被写体などにすること など
ネグレクト
- 適切な食事、衣服、住居などを整えず放置する、無関心・怠慢など
- 子どもの意思に反して学校などに登校させない(子どもが学校にいけない正当な理由がある場合を除く)
- 病気なのに病院に連れて行かない
- 乳幼児を家に残したまま外出する
- 祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人や自宅に出入りする第三者が虐待などの行為を行っているにもかかわらず、それを放置する など
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子ども虐待の現状
2020年度の児童相談所における児童虐待相談対応件数[4]は20万5,044件で、過去最多となりました。特に、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力がある事案(面前DV)に関する警察からの通告が増え、心理的虐待の相談件数が増加しています。過去と比較すると2015年度の10万3,286件から、5年で相談件数がほぼ倍増しており、毎年過去最多を更新する事態となっています。
虐待の進行段階~「しつけ」と称した体罰等が虐待につながるリスク
しつけという名の下で行われる「たたく」、「怒鳴る」といった体罰や暴言(体罰等)から始まる事例が多くみられます。
体罰等は、使われれば使われるほど、しつけの方法としての効果のなさが明白になるため、徐々に深刻化する傾向があり、最終的には死に至るような重篤な虐待が引き起こされる事例もあります。実際に、虐待事件を起こした大人が「しつけとしてやった」と弁明する姿はたびたびみられます。
体罰等は、より深刻な虐待に発展する大きな危険因子だと言えます。例えば、オーストラリアの子どもの死亡例と重症例を分析したところ、多くの事例がしつけと称してたたくことから始まったということが明らかになりました[5]。
また、体罰等は、子どもの発達に深刻な影響を及ぼすことが科学的にも明らかになっています。
日本において0歳から6歳の子ども2,000人を追跡調査した研究では、体罰を用いたしつけは短期的には有効に見えることもあるが、時間が経つにつれ、言葉や社会性の発達に遅れがみられたことが報告されています[6]。
日本では、2020年4月から親などによる体罰が法律で禁止になっています[7]。家庭を含むあらゆる場面での子どもに対する体罰や暴言をなくすことが、子ども虐待の早期予防の観点からも重要です。
虐待が起こってしまう背景とは?
厚生労働省の改正版「子ども虐待対応の手引き」[8]には、「子ども虐待は、子どもの心身の成長および人格の形成にも重大な影響を与えるとともに、次の世代に引き継がれる恐れがあるものであり、子どもに対する最も重大な権利侵害である」と記載されています(下線部筆者)。
なぜ子ども虐待が起こってしまうのでしょうか。子ども虐待につながる要因はいくつかありますが、ここでは主な要因として考えられる点を3つ紹介します。
1つ目は、親をとりまくリスクが挙げられます。病気や障害、育児不安などの精神的に不安定な状態であるなど、親自身が育児にエネルギーを注ぐことが時間的、精神的に難しいといった状況で子どもと向き合わざるを得ないことがあります。また、親自身が虐待されていた経験がある場合もあります。
2つ目は、家族をとりまく社会環境の変化です。核家族化が進み、身近に育児を手伝ってくれる人や相談相手がおらず、地域から孤立しやすくなっています。また、経済的な負担も大きな要因になっています。新型コロナウイルス感染症により、失業したり所得が減ったりしたなどという家計への影響も見過ごせません。
3つ目は、子どもは脆弱な立場に置かれがちということが挙げられます。子ども虐待は、親・養育者が家庭内のより脆弱な立場(子ども)に対して行う行為です。「子どもも一人の人間である」という基本的人権(子どもの権利)の視点や、子どもの発達に関する知識、子どものものの見方・考え方などを学ぶことで、体罰等によらない子どもとの接し方が可能になり、虐待へと深刻化するリスクが減少する可能性があります。
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虐待かも?と思ったときはどうする?
虐待を未然に防ぐために、一人ひとりができることがあります。まずは、体罰等はしてはならない、虐待につながり得るということを理解し、社会の共通の認識としていくことです。
そして、子どもや保護者の周りにいる人たちが「おかしいな」、「何か変だな」ということに気づくこと、加えて、子どもや保護者からのSOSを見逃さずにいることも、とても大事です。
「もしかして虐待かもしれない」と思ったときには、迷わずすぐに189(いち・はや・く / 児童虐待全国共通ダイヤル 通話料無料・24時間対応)に相談・通報してください。お住まいの地域の児童相談所につながります。
虐待かどうかの判断は相談機関が行うため、情報が間違いでも問題になることはありません。特に、親族や近隣にお住まいの方など、身近な方からの情報が、子どもを助けるために重要です。
誰が相談したかが他に伝わることはなく秘密は守られるので、勇気を出して相談してみてください。また、ついイライラして子どもに手を出してしまうことがあると悩んでいる保護者の方々も、安心して気軽に相談してください。
子どもを虐待から守るために
このページでは、子ども虐待について取り上げました。
最初はちょっとしたことが、深刻な虐待に繋がってしまうこともあります。身近に虐待されているかもしれない子どもが思い浮かぶ方や、子育てがしんどいと感じる方は、まずお近くの児童相談所や福祉事務局などに相談してください。あなたの行動が、子どもを守ることにつながります。
セーブ・ザ・チルドレンでは、子どもの権利や子どもの年齢に応じた発達段階を知り、目の前の子どもに向き合うために必要なことを理解したり、子育てがラクになるヒントを紹介したりする特設ページ「おやこのミカタ」を公開しています。相談窓口もこちらで案内していますので、ぜひご覧ください。
[1] 「児童虐待の防止等に関する法律」第2条、https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv22/01.html
[2] 同上、第2条第1項~4項
[3] 厚生労働省「体罰等によらない子育てのために」https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/minnadekosodate.pdf
[4] 相談対応件数とは、1年間で児童相談所が相談を受け、援助方針会議の結果により指導や措置等を行った件数。https://www.mhlw.go.jp/content/000863297.pdf
[5] Nielssen, O.B.et al, Child homicide in New South Wales from 1991 to 2005, Medical Journal of Australia,
2009,vol.190, No.1, 7-11.
[6] 服部祥子, 原田正文「乳幼児の心身発達と環境-大阪レポートと精神医学的視点」, 名古屋大学出版会, 1991年.
[7]セーブ・ザ・チルドレン「どうなる?子どもへの体罰禁止とこれからの社会」https://www.savechildren.or.jp/lp/banningphphub/