【子どもの保護コラム】家族と離れ離れになる子どもたちを守るには

このコラムでは、子どもを暴力から守り、安心・安全を守る支援である「子どもの保護(Child Protection)」という分野を、さまざまな社会課題と掛け合わせながら、わかりやすくお伝えします。 子どもを取り巻く課題を知り、考え、行動につなげるきっかけになれば幸いです。他分野やセーブ・ザ・チルドレンの活動ともつながる場としてお届けします。

 

過去のコラムはこちら:

第一回:【子どもの保護コラム】いま世界が“体罰禁止”に向かう理由――4月30日「子どもへの体罰を終わらせる国際デー」に寄せて――

第二回:【子どもの保護コラム】スマホが日常の今、子どものオンラインの安全を考える

第三回:【子どもの保護コラム】災害や紛争の影響が誰にでも起こりえるいま、子どものこころの健康を守るには

第四回:【子どもの保護コラム】ケースマネジメントとは?―子ども一人ひとりに合わせた支援のかたち― 

 

子どもの権利条約には、「子どもは親や保護者に育てられる権利がある(18条)」、また、「家庭的な環境で育つ権利がある(20条)」があります。子どもたちの心身の健全な発達にとって、親や保護者からのケアや、家庭的な環境が大切であることから、これらの権利が定められています。だからこそ、社会や大人には、そうした環境を子どもたちに確保する責任があります。しかし、世界にはやむを得ない理由で、親や保護者を失ってしまったり、家族と離れ離れになってしまった子どもたちがいます。

第五回となる今回のコラムでは、紛争や災害などで家族と離れて暮らすことを余儀なくされた子どもたちが置かれる状況、なぜそうした子どもたちが特に脆弱なのか、そして国際基準に沿った子どもの保護と支援がなぜ必要なのかを、分かりやすく解説します。

UASCとは? 

保護者など、大人の同伴者がいない、あるいは離れ離れになっている子どものことを、国連などの国際社会では、UASC(Unaccompanied and Separated Children)と表現しています。 

UASC にはさまざまな状況の子どもが含まれます。 

① 両親は存命だが、離れ離れとなり、大人に同伴されていない子ども(Unaccompanied Children)

② 両親と離れ離れとなったが、両親ではない大人に同伴されている子ども(Separated Children) 
③ 両親を亡くし、同伴する大人もいない子ども(Unaccompanied Childrenかつ孤児) 
④ 両親を亡くし、養育者とも離れ離れとなったが、大人に同伴されている子ども(Separated Childrenかつ孤児)


UASC-Orphan

 

ユニセフの最新のレポートでは、UASCの割合は一般的に避難民や難民の人口の1%から6%程度にも及ぶといわれ、世界の難民が1億2,000以上と言われている[1]昨今では、少なくとも世界中に120万~720万子どもがUASCの状態にあると推計されていますまた、被災地の状況によってその割合は15%に及ぶ場合もあり、特に緊急事態が長期化する地域ではその割合が高い傾向があという研究結果もあります[2] 

家族と離れると、どんなリスクが生まれるのか 

親や保護者など子どもの養育に責任を担う特定の大人と暮らしていない子どもはさまざまなリスクにさらされる危険性高まります。例えば、人身売買軍や武装勢力による徴集誘拐身近な大人からの性的搾取、犯罪行為暴力などのリスクにさらされやすくなります。また、生活を維持するために児童労働を強いられたり十分な取れず栄養不良に陥る危険性もあります。学校に通えず、学ぶ機会を失うことで、将来にわた、よりよい雇用の機会や更なる学びの機会を失うことも考えられます。特に難民のように、国境を越えて移動を余儀なくされている子どもは、国籍や住民票の確保が難しく、あらゆる社会サービスから疎外されてしまうこと考えられ、その影響は、長期的に見ても深刻です。 

UASCを支えるために大切なこと  

そうした事態を避けるために、セーブ・ザ・チルドレンをはじめとした支援団体では、UASCの子どもたちに適切な支援を届けられるよう、UASCとなった子どもの特定や、特定した後に適切に子どもたちが保護されるよう、日々尽力しています。子どもの中には、親や親類と再び暮らすことができる子どももいますが、身寄りのない子どもは、里親などの家庭的な環境や適切な保護施設での代替ケアが必要となることもあります。そうした一連のプロセスは非常に繊細で、特に以下4点に気を付ける必要があります。 

1. 子どもの個人情報を必ず守る 

誘拐や搾取などさらなるリスクから子どもたちを守るため、集められた情報の保護を徹底します。 

2. 公的機関への登録を行う 

子どもの社会的地位を守るために、行政機関や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) への登録を行い、本来子どもが受けられる医療や教育などの基本的サービスへのアクセスを容易にします

3. 個人に沿ったケースプランを策定する

個別に状況を分析し、その子どもにとって一番良い支援計画策定します。(ケースマネジメントについて詳しく解説した記事はこちら 

4. 家族との再統合、代替ケアを提供する 

脆弱性の高い子どもを優先するとともに、家族や保護者との再統合(再会、合流)が可能なケースも優先的に対応します。また、家庭的な環境を最優先に代替ケアを提供します。そうすることで、危険から子どもを守り、UASCの子どもを減らす努力を行います。 

 

また、個別のケースを扱う前に、地域ごとにどのようなリスクがあるのかを丁寧に調べることに加え、国連や地域自治体との連携を担保し、他団体との支援の重複を避け、持続可能な支援体制を構築することも大切です。[3]

 

写真2CH1744371_6 years old reunified child Rakib living happily with his family

パレスチナ・ガザ地区の事例セーブ・ザ・チルドレンの取り組み 

近年の紛争でもUASCとなる子どもがたくさんいます。例えば、2023年10月7日から起きたガザ地区への大規模攻撃では、これまで6万8,800人以上の市民(うち子ども2万人)が犠牲となりましたが、UASCは17,000人以上に達しているとの報告があります[4]。ガザ地区の総人口は200万人、国内避難民はそのうち9割で、避難民における人口比でいうと約1%がUASCに当たります。また、別の報告では、5万8,000人の子どもが片親、または両親を失ったという統計もあります[5]ガザ地区は、種子島ほどの小さい地域で、空爆中であっても地域外に出ることが許されず、地理的に狭い範囲で多くの子どもがUASCとなることからも、状況の深刻さを伺い知ることができます。また、今回の空爆では、多くの市民が犠牲になる中で、WCNSF(Wounded Child with No Surviving Family:生き延びた家族がいない、負傷した子ども)と呼ばれる子どもが多数発生しており、そうした子どもは病院での治療を終えても、病院内で暮らしているとの報告もあります。こうした子どもたちが何人いるのかは、停戦後も続くイスラエルによる厳しい移動制限や、空爆によって、いまだに明らかになっていません(2025年12月現在)。 

 

ガザ地区ではこの紛争中、万が一親とはぐれても誰かが親を見つけてくれるかもしれない、あるいは、自分が瓦礫の下敷きになって手足だけが残っても誰だかわかるようにと、親に自分の手足に油性ペンで名前を書いてほしいとせがむ子どもが多くいました。そうした背景に、死んだとしても、また生き残ったとしても家族と離れたくない、という子どもの強い気持ちが表れています。また、こうした事態を受け、国連組織であるユニセフや国連パレスチナ難民救済事業機関 (UNRWA)では、腕につけるIDを10万人以上の子どもに配布してきましたが、実際のところ、イスラエル軍に封鎖されている地域に暮らす子どもの追跡は困難を極めていると言われています。 写真3CH1973718_A boy walks past tents in Al Mawasi

 

セーブ・ザ・チルドレンでは、子どもの保護事業の一環として、UASCの子どもを対象に、ケースマネジメントによる個別支援を行っています。

現地スタッフによると、こうした子どもたちは特に心理的状態が不安定で、怒りや悲しみを強く表し、また夜中に眠れないことも多いと報告されています。

ガザ地区をはじめ、アラブ諸国では、親戚の範囲が日本よりも広いため、通常、親や身近な保護者を失っても、親戚の家を頼って暮らす子どもが多いですが、それすら叶わない子どもは、地元のNGOや、自治体が運営するセンターに保護され、衣食住のケアを受けています。しかし、こうした子どもたちには、衣食住だけでなく、代替ケアの提供や精神保健・心理社会的支援も含めた息の長い支援が必要です。 写真4CH11270386_Hala, 19, and her sister Areej, 9, drawing and colouring

おわりに 

冒頭でも触れましたが、子どもたちは「親や保護者に育てられ」たり「家庭的な環境で育つ」権利があります。しかし、世界の実情は厳しく、その実現は容易ではありません。自然災害の発生は避けられませんが、少なくとも、紛争を理由にしたUASCをなくす努力を普段から行うこと、具体的には、暴力によらない外交努力や、国際法の遵守を後押しすることなど強く求められます。また、自然災害や紛争の発生時に、子どもが親と離れ離れにならないように、行き先や合流先を子どもにも説明する、子どもに親・保護者の連絡先を持たせるなど離散を予防する手立てを講じることも大切です。あらゆる暴力やリスクから子どもを守るための世界的な取り組みが広がり、子どもたちが親や保護者と離れ離れにならず、共に暮らせる日々が続くように、私たちは支援活動を続けていきます。  

 

<参考>家族と離れて避難するって、どういうこと?

 

[1]数字で見る難民情勢2024UNHCR 2024

[2] 「Identifying Rates of Unaccompanied and Separated Children in Humanitarian Setting」、 UNICEF 2025年6月(地域や危機の種類によっても割合が異なり、アフリカではUASCの割合が平均2.7%で、0.6%から5.8%の範囲で変動することが確認されています。一方、アジアでは中間値が1.18%、高値が7.22%と、全体の平均よりも高い傾向があります。これらの研究結果から、UASCの割合は状況や地域によって異なるため、統一的な推定値を適用するのは難しいとされています。 

[3] より詳しい手順はこちらのAlliance for Child Protection in Humanitarian Action発行した「Field Handbook, Unaccompanied and Separated Children」(PDF)からご覧いただけます。 

[4]Unaccompanied and Separated Children in Gaza International Rescue Committee – occupied Palestinian territory August 2024」、International Rescue Committee20248

[5] 「Putting the Pieces back Together: Centring Children and Their Protection in the Humanitarian Response in Gaza」、the Alliance for Child Protection in Humanitarian Action、2025年11月 

Written by

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部 子どもの保護グループ

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部 子どもの保護グループ

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